この作者は主に1980年代に活躍したのですが、代表作と云われると何を挙げようかと考えてしまいます。
初めてみたのは1978年6月号の「マンガ少年」に載っていた『不惑(まどわず)』です。『ザ・タックスマン』の最初に載っています。間もなく不惑という男の教師浅田が母校に赴任するところから話が始まります。普通の進学校のはずなのですが、少し様子が違います。生徒は言うに及ばず、教師までが何かのコスチュームでパフォーマンスをするのです。浅田は生徒に向かって「貴様らは学校を何とこころえとる!!」と叫ぶのですが、逆に生徒に突っ込まれてしまいます。
夜、かつての教え子の三井先生に誘われて飲みに行きます。「実は…」と何か言いかける三井ですが、トローンとした浅田を見て「出ましょうか…」と言って店を出ます。
次の日、朝礼のときに浅田はロックンロールの衣装を着て登場して、「浅田常男スーパースター」と決めるのですが、満場はシーンとしているだけです。浅田が三井に尋ねると「普通の進学校でして---でも時たま息抜きにシャレなんか(中略)先生の赴任とも重なったし歓迎の意もこめて…」と言われます。校庭に残される浅田と三井。「ゆうべ僕がお話しするはずだったんですが…」と言う三井。浅田は三井に音楽をかけさせ、最後のページは一齣だけ、校舎の俯瞰に豆粒ほどの大きさで Rock around the Clock を歌う浅田で終わっています。
受験戦争を闘う生徒と教師をこのように皮肉をこめて、さらにはユーモラスに描けるとは。とても23歳が描いたマンガとは思えません。37年前のマンガなのですが、今でも十分に通用すると思います。
1980年には『天使の日』(『ザ・タックスマン』に収載)で再デビューをして、『地球防衛論』(『福の神襲来!!』に収載)を描いています。『地球防衛論』は安永航一郎の『県立地球防衛軍』に先立つこと三年です。今回読み返してみて、たった三人の防衛軍で、他の防衛軍と渡り合う(?)そのスケールに感心しました、それも衛星軌道で。宇宙が出てくるところはすごいのですが、最後のページには笑ってしまいます、しっかりギャグマンガなのです。
『TAKE IT EASY』は最後の単行本のようです。四ページでひとまとまりになっていますが、特にタイトルはありません。「ある中一直線」のTシャツを着た作者が主役のものだけは六ページです。飲んべえの心理を実に上手く表しています。
以下、気に入った作の紹介を。
15ページからの年末進行についてのお話。一月発売の本にサンタクロースの話をしつこく三回書いて、最後に大きな袋を出して、七福神を出すというオチ(実際には四人しか描かれていませんが)。これには笑ってしまいました。
31ページに携帯電話が出てきていますが、いまのケータイから見たら考えられないほどの大きさです。携帯電話の進化がよくわかります。
39ページから42ページには成人式が描かれています。39ページの小学生のセリフ「俺達 悪い時代に生まれたよな―」「あと十年はこーゆー状態が続くんだもんな―」には、考えさせられます。小学生が勉強勉強と追い立てられるのを嘆いているのですが、今から見ればこの時から12年経って、大学を出ても就職難でさらに大変なことになるとは、この時は誰一人として思ってもいなかったでしょう。42ページの最後のマンガは「このままで行けば選挙権のある事忘れてくれるんじゃ…」と黒塗りの男のセリフがあります。来年の参議院選挙から18歳以上の選挙権が認められますが、さて投票率はどのくらいになるのでしょうか。
103ページからはペットのお話です。露店のひよこが大きくなってと友達に相談する男、家に帰ってから鶏にはなっていない大きくなったひよこの前で悩む男。「はいずり物(ヘビやトカゲ)がブームだと聞くが… お前んとこまではいずり物飼ってるとはなー」と言う作者(だと思います)「…うちの長男だ」とLDKのキッチンから嫌な顔をして答える父親。這っている赤ん坊が描かれています。自分に関係のない赤ん坊が可愛いかどうか、これは難しいところです。
馬(と競馬)の話が八話もあります。父と高校教師の長男と高校生の娘が出てくる話が多いのですが、なかなかに笑わせてくれます。
最初にも書きましたがこれはと云った作品のないのが惜しまれます。どれも水準は超えているのですが、強いて挙げるとすれば、『地球防衛論』でしょうか。「世界各国に地球防衛隊があって その数500とも600ともいわれている」もののひとつがこの「神戸垂水星ヶ丘地球防衛隊」なのですが、さまざまなことについてのギャップの大きさがギャグになっています。
ギャグ漫画家は長持ちしないというのは一面では真実のようです。
なお、作者はペンネームとは逆に女性です。マンガ少年の「不惑」の柱に本名が書いてあります。
書名『ザ・タックスマン』
出版社 東京三世社
1982年4月10日初版発行
書名『福の神襲来!!』
出版社 東京三世社
1985年11月20日初版発行
書名『TAKE IT EASY』
出版社 チャンネルゼロ
1993年4月20日第一刷発行
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