2016年7月31日日曜日

川崎苑子の『タンポポとりでにあつまれ』


 小学六年生になる春休みに、パパの海外勤務で母方の田舎に預けられる事になったマキのお話です。初めてやってきたママの実家での、従兄弟達とのあれこれ、薔薇を作っている祖父とのことなどがあります。そんなある日、パパがやってきて、マキを抱きしめてくれます。ママはマキを産んでなくなっています。
 と、纏めると身も蓋もなくなってしまいます。タイトルの「タンポポとりで」はどこにとなってしまいますので、少し詳しく見ていきましょう。

 お話は田舎で従兄弟達がマキを待っているところから始まります。バラ作りをしているおじいさんはマキを抱きしめます。マキを歓迎する従兄弟達ですが、一人田舎に追いやられたマキにはそれすらもうっとうしく感じられます。
 マキと従兄弟達との諍いがしばらく続きます。

 タンポポの野原の中にある大きな木の上の秘密の小屋にようやくマキは気づきます。もちろん従兄弟達が作ったものです。従兄弟達がサイクリングに出かけた時を狙ってマキは秘密の小屋の偵察をします。小屋の中でついうとうとしていると、激しい風に目を覚まさせられます。ロープで何とか小屋を木に縛り付けるマキですが、最後に足を滑らせ、タンポポの中に落ちて気を失います。気がつくと心配そうに取り囲んでいる従兄弟達。「ぶじだったよ とりで」と言われます。それからは従兄弟達とも仲良くなります。

 マキの自転車の練習や、恋のさや当てなどがありますが、マキは田舎の暮らしになじんでいきます。
 そんなある日、マキは偶然パパからの航空便を見つけます。ここで第一巻は終わっています。

 手紙の束を持っておばさんのところに行くマキですが、おばさんに手紙の宛名を見るように言われます。宛名は全部おばさん宛です。
 以下の12ページで多くのことが明らかになります。おばさんはおじいさんに内緒でパパとマキについての手紙のやり取りをしていたこと、おじいさんはパパがマキに手紙を出さないことを条件にマキを受けいれたこと、ママは一人寂しくマキを産んでなくなったこと(これは事実とは少し違うことが後に分かります)、そして今はパパが重い病気で入院していることなどです。
 一人ででもアメリカに行きたいと思うマキですが、そこに電話がかかってきます、パパが完全に持ち直したとの国際電話です。

 従兄弟達の中で一番年嵩の隆史のエピソードを挟んで、「タンポポとりで」のお話が30ページ余りに渡って描かれています。近くにできた団地の子供達との秘密の小屋(タンポポとりで)を巡る攻防があり、そのことが大人達に知られて、小屋ののっかている木を切り倒されそうになります。木を切り倒そうとしている時に、大勢の子供達が押しかけてとりでを壊さないようにと頼みます。土地の持ち主のおじいさんは子供の頃のことを思い出し、木を切るのをやめます。

 おじいさんは白バラ作りに励んでいます。温室に入ったことをとがめられ、おじいさんとケンカするマキですが、おじいさんが白バラに自分の母親の名前で呼びかけるのを聞いてしまいます。そのすぐ後で、温室の屋根を従兄弟の蹴ったサッカーボールが壊します。
 次の日、おじいさんはバラ展の打ち合わせで町に出かけます。その夜、眠っていたマキは雨音で目を覚まします。白バラは雨に弱いとおじいさんから聞かされていたマキは、傘とビニールを持って温室の屋根に登ります。おじいさんが帰ってきて、そんなマキを見つけて叫びます。「(バラよりも)おまえのほうがずっとだいじだ!」
 朝、バラを見に行くと、風雨にさらされたのにきれいな白い花を咲かせています。「この花はもろくない おまえもそうだったのか?」と、亡き娘に思いを馳せるおじいさん。
 バラ展で白バラは特別賞を取ります。その喜びの中でおじいさんは倒れてしまいます。バラ展に来ていた医者が自分の病院におじいさんを運び込みます。その病室はマキの母が亡くなった部屋で、医者はマキを取り上げた医者でした。医者から話を聞き、ママが幸せだったことを知るマキです。

 ある雨の日、家では親戚が集まって何か忙しそうです。でもマキはなぜかわけを知らされません。雨が上がり、とりでにボタンを取りに行った帰り、マキは思いがけない人に出くわします。おじいさんに呼ばれて田舎にやってきたパパです。
 「はしりだしたマキ(中略) たんぽぽの季節にやってきた女の子の声がこだまする」でマンガは終わります。

 笑いあり、涙ありと少女マンガの王道を行くマンガです。読んでいて飽きません、面白いのですが、うまく言えませんが、この作者ならもう少しストーリーを作れなかったかなあと思うのです。不満の一つが、タイトルにあると思えるのです。もちろん、最初にとりでを作り、そこを遊びの拠点にしていたのはわかります。しかしその後の、タンポポとりでを巡る大人と子供の対立は一つのエピソードとしか思えないのです。お話の底流は、マキとパパと亡くなったママ、そしておじいさんにあるのですが、タイトルからはそのことには思いあたりません。ではどうすればと言われると代案もないのですが。
 バラ展に来ていた医者は一体何が看板の医者なのでしょうか、産婦人科であっても緊急だからとおじいさんを受けいれたのでしょうか。
 
 このマンガからすでに40年以上の時が流れています。だからといって50歳を過ぎたマキにあって見たいかと云われると……。
 このマンガが描かれた頃の年表を見ると、1973年の第一次オイルショックに始まる大変な時代だったんだなぁと。でもこのマンガはそんな暗さは感じさせません。


 書名『タンポポとりでにあつまれ』
   一巻二巻とも副題が付いています。
   一巻 マキの初恋の巻  二巻 バラ展はてんやわんやの巻
 出版社 発行所 創美社 MARGARET RAINBOW COMICS 
     発売元 集英社
 発行年 一巻1976年11月25日初版発行  二巻1977年1月15日初版発行