2013年12月30日月曜日

星野めみの『きこえますか愛!』


 書店でマンガを立ち読みすることは今はほとんどできません。広告のために冊子で20ページほどのものが置いてあって、それは読めます。そんなものの一つに『聲の形』がありました。それをぱらぱらとめくっていると、手話が出てきました。
 その時に思い出したのが、標題のマンガです。たぶん手話の出てくるマンガでは一番古いはずです。でも、内容はほとんど忘れていました。捜してみたら、ありましたので、このマンガについて少し書いてみます。

 以下にあらすじを記します。

 きこえますか 愛 ボクの声が きこえますか
 はい きこえます あなたの 愛が きこえます

 この書き出しから物語が始まります。
 主人公の生田愛は女子校のコーラス部の二年生です。夏期合宿で軽井沢に来ています。あこがれのコーラス部の中河保先生の郷里の町で、五年前までは愛の住んでいた町です。
 休憩時間に神社に出かけた愛は、そこで五年前の運命の人に出会います。その人は中河元樹と云い、先生の弟で聾唖者でした。愛は元樹と友達になります。
 種々のいきさつから手話のコーラスをやることになります。

 愛は元樹の家で見た写真で、五年前の運命の人は実は保だったことを知りますが、先生と話してもちっともときめかない愛です。
 約束の場所にずうっと遅れて行った愛の目にしたものは……、車道に飛び出した愛を追いかけた元樹は車にはねられます。幸い怪我は一週間程度の安静で済みますが、そのことで婚約者を名乗る元樹のいとこに責められる愛です。
 手話を交えたコーラスは成功の裡に終わりますが、合宿途中で逃げるように帰る愛です。後を追って元樹は駅に急ぎます。

 きこえますか 愛 ボクの声が きこえますか
 はい きこえます あなたの 愛が きこえます 一生あなたの そばに います…


 このマンガは昭和53(1978)年に描かれたものです。Wikipedia(障害を扱った作品の一覧) を見るとさすがに『聲の形』はまだありませんが、聴覚障害を扱った漫画の中では一番古いものでした。
 なお聴覚障碍者のかたの作っている「マンガの中の聴覚障害者」(http://www001.upp.so-net.ne.jp/wakan/index.html#handsign)にもこのマンガは取り上げられて、「最初の手話コーラスマンガ」とのタイトルが付いたページにあります。
 (http://www001.upp.so-net.ne.jp/wakan/HandSign/Kikoemasuka.html)
 そこにはいくつかの不満も書いてあり、なるほどと思わされます。

 このマンガのストーリーが記憶に残っていなかったのは、手話を除くとあまりにも陳腐すぎたせいかもしれません。典型的なロマコメですから。
 それでもこの本を買ったのは、手話が出てくる「最初のマンガ」に惹かれたからなのでしょう。


 書名『きこえますか愛!』
 出版社 集英社 集英社漫画文庫 152
 昭和55年12月25日 第1刷発行 手元にあるのは昭和57年8月25日 第7刷です。



 今年(2013年)は聾唖者の国際スポーツ大会デフリンピックがブルガリアのソフィアで開催されました。

2013年12月5日木曜日

柴田昌弘の『成層圏のローレライ』と『赤い仔猫は笑わない』


 この人は「ブルーソネット」を含む『紅い牙』シリーズが真っ先に思い浮かびます。ここでは別の作品を取り上げます。

 この二作品は同じテーマの連作です。成層圏を飛ぶ飛行機の外から女の声が、歌うような声が聞こえ、それを聞いたものは気を失うと云う、ドイツのローレライの伝説のようなことが大空で起こります。
 『成層圏のローレライ』では知らずにそこに飛び込んでしまった旅客機が、『赤い仔猫は笑わない』では、わざとそこに飛び込んだ旅客機が舞台になります。

 『成層圏のローレライ』は、持病の発作で気を失いローレライの歌声を聞かなかったスチュワーデスが、分離手術を受けた耳の聞こえないシャムの双子の少年と力を合わせ、地上のパイロットの望月ともう一人の双子と協力して飛行機を無事に着陸させるというものです。双子は互いの状態をテレパシーで知っています。望月は同型機のコクピットからスチュワーデスに指示を送ります。躊躇うスチュワーデスに言う次のセリフにはぐっと来ます。「きみだけが295人の命を救えるんだ」

 『赤い仔猫は笑わない』では、水爆を仕掛けられ、催眠術にかけられたスチュワーデスに乗っ取られた旅客機が舞台です。機長に殴られて気絶する望月を乗せ飛行機はローレライの領域に飛び込み、全員が気を失います。目覚めた望月は飛行機を操縦し、日本へと向かうのですが……。ここではネタバラシはしませんので、悪しからず。

 このふたつのマンガは少年誌に載っても何の違和感もありません。むしろ少年マンガと言ってもいいのかもしれません。80年代前半にはこのようなマンガさえ包み込むほどに少女マンガの懐は広かったのでしょう。舞台が飛行機というのは、珍しくないのかもしれません。スチュワーデスの物語はたくさんあります。このマンガも恋愛マンガの範疇に入るのかもしれませんが、他のマンガと一線を画しているのは、主役があくまでもローレライだからではないでしょうか。大空にはまだ禁断の空域があるのかもしれませんね。

 作者はこのあと、『紅い牙』シリーズの「ブルーソネット」を描き、少年誌に舞台を移し、最後は青年マンガを描いています。2009年以降はマンガは描いていないようです。


 書名『成層圏のローレライ』
 出版社 白泉社 花とゆめCOMICS 262
 1981年5月25日 初版発行

 今日から四年目になります。最近はあまり書かなくなりましたが、それでも読んでくださる方がいらっしゃる限りは細々とでも書き続けていこうと思います。

 昨日が東日本大震災からちょうど1000日でした。被災者の声の中には、「まだ復旧さえしていない」と言うのが印象に残っています。いつになったら傷痕が癒されるのでしょうか。