2021年2月12日金曜日

川崎苑子の『あのねミミちゃん』

 標題のマンガはわたしが最初に読んだ川崎苑子のマンガで、この人のマンガにのめり込むきっかけになったものです。 

 三十数年振りに通して読んでみてやっぱり面白いと思いました。では、マンガを見て行こうと思います。 

 最初は「転校生 ミミちゃんの巻」で、一学期の途中に転校してきたミミからお話は始まります。転校の挨拶の時に先生から「あんまりおとなしくしてないで ひっこみ思案はなおすように」と言われるミミですが・・・。ジロ君にいじめられて、本性が出てしまいます。ジロ君にドッヂボールのボールをぶつけてこう言うのです。「ママはいつもおとなしくしなさいっていうけど(略)あたしいじめられるのなんて大っキライなんだから!」

 この巻でお話の主な登場人物が出てきます。腕白なジロ君、おとなしい学級委員長の学君、ちょっと意地悪もする副委員長のゆり子さん、そしてミミちゃんです。おっと、担任の先生を忘れてはいけませんね。この始まりは今でも鮮明に覚えています。

 「あこがれよ さようならの巻」と「ごちそうを ひとりじめの巻」は続き物です。町はずれの古い洋館には、さみしい貴婦人が住んでいてと思いをめぐらすミミですが、ジロ君に偏屈なばあさんが住んでいるだけだと言われます。二人で確かめに行くと、台所には大きなナイフと炉には火が燃えています。怖くなった二人に「待ってたんだよ」と声がかかり、後ろも見ずに逃げ出す二人です。それから何回か街で見知らぬおばあさんに微笑みかけられるミミです。そのおばあさんが足をくじいているところに通りかかったミミは手を貸してお家まで送りますが、そこはあの洋館です。食べられてしまうと思ったミミですが、食べ切れないたくさんの手作りのお菓子が出てきます。遠い遠いむかしに事故で家族を亡くしてしまったこと、まわりの人からは忘れられてしまっていることを寂しそうに話すおばあさんに、ミミは言います。「あたし遊びに来る!友だちになるから!」 次の日から級友そっちのけのミミを不審に思ったジロ君たちに後を付けられて、おばあさんのところに通っているのが皆んなにバレてしまいます。こうして、おばあさんの庭は町中で一番子供の集まる庭になります。

 最初に読んだ当時は素直に面白いしいい話だなあと思いました。古びた洋館に住んでいる人を勝手に想像して、それが間違っていることに気づきがっかりするミミ。その洋館のおばあさんはミミの知らないところで、ひとりぽっちを嘆いているのです。街中で何度も微笑みかけるおばあさん、それを何故だろうと不思議に思うミミ。おばあさんの庭にあふれる子供達の声で終わりになるところと云い素晴らしいと思います。このマンガが描かれたのが1973年(昭和48年)と云うのもあるのでしょう。

 「なかよしさんは だ〜れ!?の巻」では仲良しの友達の名前を書いて先生に提出するのですが、掃除終了の報告をしに行って先生の机の上の表を何気なく見るミミ。その表にはポツンとミミの名前があり他の子供とつながっている線はどこにもありません。みんなに嫌われていると思うミミですが、母親から線が多過ぎて表にできなかったと先生に言われたと聞いて母に抱きついて泣くのです。

 「きょうはママの誕生日の巻」ではミミと両親のすれ違った思いが描かれています。12月の土曜日、今日はママの誕生日なのに気づいたミミは学校から帰って来ると(念のため、このころの土曜日は仕事も学校も午前中だけが当たり前でした)、ママはデパートに買い物に出かけています。自分の誕生日を忘れているに違いないと、ミミは散々苦労してケーキを作ります。けれどいくら待ってもママは帰って来ません。遅くにパパと帰って来るママですが、「誕生日だってことパパおぼえててくれてね(中略)ミミもおぼえてくれるといいのに」と言われ、泣き出すミミです。「いくらママがあやまってもいくらパパがなぐさめてもミミのからだは涙の泉 おそいんだよね」で終わります。悲劇にしても可哀想過ぎます。

 「ことしはガンバルぞの巻」では、遊び呆けるミミがジロ君の話を聞かずにテストで大失敗をすることになります。「勉強もほかのことも一生けんめいがんばる!」と思うミミです。数日経って、ミミはよい子になりました、といえればいいんですけどね、で終わっています。このお話には、大人になった今でも身につまされるものがあります。その時には、反省していたはずなのにと・・。 「教師をつづける自信がないの巻」は、ミミ達の担任の先生が、クラス運営が上手くいかないと悩んだ末に熱を出して寝込んでしまいます。クラスのみんながお見舞いに来て、その時の様子に感激した先生は「千年でも万年でも教師をしてやる」と誓うのです。このころの先生は、まだ親や児童からの尊敬の対象になっているのです。それはこのマンガの底流になっています。

 「ミミちゃん 大変身!? の巻」ではママのカツラをつけ外に出たミミですが、友達は誰もミミと気付きません。みんなにチヤホヤされて気分のよくなるミミですが、皆んなからミミと比べられてミミの悪口を言われます。怒ってカツラを取るミミと皆んなの睨み合いで終わっています。知らないとはいえ本人を前に悪口を言ってしまったのですから、これは・・。

 「妖精さん ごめんなさいの巻」は、家にひとりぼっちになったミミがいたずら妖精と二人でいろいろと悪さをすると云うお話です。夕方にママが帰ってきて、友達も遊びに来てミミは妖精のことを忘れてしまいます。ハッとして「まって妖精さん」と呼び掛けるミミですが、「あれは夢? (中略) はい たぶん だけどいまでもちくりといたむ(後略)」で終わります。ひとりぼっちの寂しさをなんとか紛らそうとする思いの見せた夢なのでしょうが、ミミの寂しさをうまく表現しています。

 「このみ先生大失敗!!の巻」では、「教師生活もすっかり板につき」と、班替えをする先生ですが、班長を立候補させ班員を集めさせようとします。ミミは立候補しません。先生はミミが楽をして人気者になろうとしていると考え、ジロ君やゆり子さん、学君の班に入ることをはばみます。「できない子やイタズラッ子をあつめてすばらしい班にしてこそりっぱな班長」と先生は言います。ようやく終わったとホッとする先生ですが、班が決まっていない子が一人。ミミだけがどこの班にも入っていないのです。「ひとり班なのね」と言って忘れ物を取ってくるからと校庭に行くミミですが、なかなか戻ってきません、先生が見に行くと泣いているミミが・・。「先生はどれほどじぶんをせめたでしょう わたしはまだまだ未熟者」 先生としては上手く行ったつもりが、そうではなかったと云う事で、思惑とは違ってしまった結果になったのです。どのように解決したのか気になります。

 「おばあさんと福寿草の巻」ではママとミミのすれ違う思いが、結局は同じことを考えていたと云うお話です。町外れに住むおばあさんに二人とも福寿草を届けます。おばあさんは「あこがれよ さようならの巻」のおばあさんです。

 最後の「自由にのびのび大きくそだて!の巻」では、前のお話で悪かったテストを見つけられ、パパとママからビシビシと勉強をさせられるミミ。宿題の作文「大きくなったらなんになりたいか」を、県のコンクールに出すことになり、それが全国コンクールまで行きます。ミミの鼻はだんだん高くなりと、ここでとんでもないことが起こります。隣町のミミと同じ名前の子が全国コンクールに行ったことがわかります。がっかりするママに先生は言います、「雑草はつよしですわ」と。「先生は気がつきました はじめてあったときよりミミたちがずいぶんずいぶん大きくなっていることに・・」で終わっています。

 連載の二年近くで大きく成長したミミ達を描くことに成功したようです。このマンガはミミ達の成長を描くと同時にこのみ先生の教師としての成長を描くことにも焦点があるようです。新米の教師として赴任してから二年の間にずいぶん教師らしくなっているなぁと思うのは、思い込みでしょうか。出版年からみると最初の巻を見て残りをまとめて買ったようです。

 学校を舞台のマンガは、子供の成長をどう描くか難しいものがあります。『月とスッポン』では、中学から高校までの成長を描いています。一方『小さな恋のものがたり』では数十年間の連載の間、主人公達は歳を取りませんでしたが、マンガでは脇役達が増えていきました。かと思えば『らいか・デイズ』のように、主役は永遠の六年生なのに担任の先生は結婚して、赤ちゃんが産まれ、赤ちゃんが成長してと周りは変わっていくと云うマンガもあります。読むほうとしては面白ければ何でもありなのですが。



書名『あのねミミちゃん』1〜4巻 MC155, 181, 206, 209

出版社 集英社

1巻 1974年6月20日初版発行 手元にあるのは1977年6月30日8版

2巻 1975年3月20日初版発行 手元にあるのは1976年4月30日3版

3巻 1975年10月20日初版発行 手元にあるのは1977年6月30日3版

4巻 1975年11月20日初版発行 手元にあるのは1976年4月30日2版