2023年12月5日火曜日

ささやななえの『私の愛したおうむ』

  半世紀前のマンガです。とはいえ内容は現代にも十分通じるものがあります。まま母とうまく行っていない中学三年生の嶋田みちこが主人公です。

 生みの母が亡くなり新しい母をむかえるみちこです。よろしくねと言われて嬉しそうな顔をしています。しばらくして男の子が産まれます。まま母とその友人の会話が聞こえてきます。「自分の子の方がかわいいでしょ」「そりゃそうよ!(中略)あれでかわいかったらまだ愛情もわくんだけどね」

 学校で禁止されているアルバイトをして貯めたお金で一羽のおうむを買います。そのおうむは一つの言葉しか言いません「アイシテル」。

 クラスの大杉くんに日曜日に遊園地に誘われます。その日は土砂降りですが、雨の中を出掛けるみちこ。雨の中、一時間待ち、帰ろうとすると声をかけられます。まさかと思って来てみた大杉くんでした。大杉くんは喫茶店で明日おうむを見に来ることを約束します。

 大杉くんは、みちこがお茶を淹れるために座を外したスキにおうむに「オタケサン オハヨウ」を教えます。それを見てみちこは大杉くんを追い出します。

 翌日学校に行くと、「アイシテル」と級友からからかわれます。みちこは大杉くんの頬を思いっきり平手打ちをします。「うそつき!なにが友だちよ‼︎」 おうむとどこかに行こうとうちに急ぐみちこですが、弟が高い所に吊ってある鳥籠を椅子に登って取ろうとして鳥籠ごと椅子から落ちてしまいます。そのはずみにおうむは死んでしまいます。死んだおうむを抱えて飛び出すみちこ、そこに大杉くんが。大杉くんを振り切って掛け出すみちこですが、土手を降りるときに滑っておうむを川に流してしまいます。おうむを追いかけようとするみちことそれを押さえる大杉くん。34ページの土手に座る二人の場面では雨が上がっています。

 昔、ネットで読んだのですが、最初はみちこを死なすプロットだったのが、暗くて救いがないから変えてくれと編集者から言われたとのこと。確かに死んでしまえばそれでおしまいですが‥‥。 

 椎名篤子の「凍りついた瞳」をマンガ化したのも納得できました。「私の愛したおうむ」の17ページにひとりごととして「わたしの心の体験をそのまま作品にしたようなものです」とあります。

 何十年かぶりに読み返してみました。今回読み返してみて、こんなにも黒が多用されていることに改めて気付かされました。ささやななえといえば「おかめはちもく」には黒は多用されてなかったような気が‥‥。今回もうんうんそうだよなぁと読んでいました。みちこがまま母とうまくやる方法はなかったのかと考えましたが、14ページのまま母とその友人たちの会話を聞いてしまった以上は無理なのかなと。大人なら聞かなかったことにして、なんとか過ごすかもしれません。しかし(多分)小学校の高学年のみちこにはそれは無理なことでしょう。命は助かったもののこれからのみちこの行く末を思うと、暗澹たる気持ちになってしまいます。

 この本の最後にはデビュー作の『かもめ』が載っています。


書名 『私の愛したおうむ』 花とゆめCOMICS HC-30

出版社 白泉社

出版年 1975年12月20日 初版発行 手元にあるものは1976年5月20日 2版

2023年4月30日日曜日

柿沼こうたの『ゆうれい色の日常』

  今回取り上げるのは比較的新しいマンガです。本屋でタイトルをみて手に取ってみると、傘を差している女の人とゆうれいのかわいい絵、そして帯の惹句で買いました。最初の「踏切1」を読んで買ってよかったと思いました。 

 190ページで26の短編が載っています。長いものでも12ページです。どの作品にも幽霊が出てきますが、どの幽霊ももちろん怖くはありません。登場するのはほとんどが寂しい幽霊です。と云うことで、少し中を見ていきます。

 まずは「踏切」からです。このマンガは1〜4まであり、第1話、第6話、第13話そして最終話(26番目)に載っています。「踏切1」では昔踏切で死んだ女の人の幽霊が出てきます。その踏切の側で雨の日の夕方に傘を差して誰かを待っているような女の人がいます。誰も来ないなんて可哀想と幽霊は思うのですが、ある雨の日、夜になっても雨が止まず幽霊は女の人に声をかけられます。「今日は雨が強いしウチくる?」 かわいそうな人なんかひとりもいなかった でお話は終わります。「踏切2」は猫の幽霊です。この猫は生きていた時に生きていた時の踏切の幽霊の人に助けられていたのです。「踏切3」では次第に幽霊が見えにくくなっていく女の人と幽霊とのすれ違いに涙する二人です。「踏切4」は最後に書きます。

 どれをとっても面白いのですが、その中からいくつか取り上げてみます。第3話「やまびこ」ではやまびこの正体が幽霊なのを知った女の子のお話です。成長して子どもを連れて帰省した女の人が大きくなった町(幽霊と出会った場所まで町は拡がっています)で山に向かって叫びますがやまびこは返ってきません。子どもがおーいと叫ぶと小さく返ってきます。「まだどこかで見守っているんだね」と涙する母親です。 第4話「病院」は黒い影と入院している女の子のお話です。女の子に目が見えないと言われ、黒い影は女の子の前に現れていろんな話をします。明日は女の子の手術と聞いて、黒い影は、目が見えるようになったら自分を怖がる、それならいっそこの手でと考えるのですが、女の子の「治っても私たち友達だよね」にはっとします。「心まで化け物になろうとした‥‥ もうあなたに会う資格はない‥‥」と姿を消してしまいます。退院の前の日、黒い人影は最近現れないと聞いて「お互い嘘ついちゃったね‥‥」と涙する女の子。女の子の嘘はここに書かなくても分かるでしょう。 第10話「地蔵」では60年の時を経て、助けた女の子の孫に恩返しをされる幽霊の話、第17話「橋」では橋を渡って幽霊に会いに来る女の子、その橋も取り壊され、夜に合図を送っていた女の子も10年、20年と経て合図も消え100年後には集落も無くなってしまいます。「ひとりになったか」と思う幽霊ですがそこに老婆の幽霊が現れて言います。「もう手ふらなくてすむね」と。

 「踏切4」ではそろそろいこうと決心した幽霊が愛し愛された人たちに別れを告げ、待っていた猫の幽霊を胸に抱え消えるのですが、消える寸前でこちらを振り向いて言うのです。「いってきます」

 悪意を持った幽霊はいません。第4話の黒い人影だけが悪意をなそうとするのですが、女の子の一言で改心します。幽霊がこんなにも優しく、寂しい心を持つのなら幽霊と友達になるのも悪くないのかも知れないなどと思わされます。「踏切4」の「いってきます」には「いってらっしゃい」と声をかけたくなります。この会話には帰ってくることが前提としてあるはずなのですが。でも、終わりが「さよなら」では何の余韻も残らないしなぁと。

 幽霊の話なのに登場する幽霊はどれも可愛くて、こんな日常なら悪くないなぁなどと思うのです。絵としてはカワイイ系の絵ですが個性的な絵で内容に合っていると思いました。

 このマンガはネットで配信したものを単行本にしたものです。


書名『ゆうれい色の日常』

発売元 株式会社小学館クリエイティブ

発行所 株式会社ヒーローズ

出版年 2022年12月31日第1刷発行

 

2023年3月11日土曜日

地震から12年

 今日は天気が良く、暖かな日です。 12年前のこの日は雪のちらつく寒い日でした。星空を眺めることもなく、懐中電灯の灯りで部屋の中を確認して、狭くなった部屋の蒲団でとりあえず眠ろうとしたことを思い出します。

 十三回忌と云うことで、より一層思い出されることも多いのでしょう。震災関連死を含めて22,000名を超える方が亡くなりました。ところで、宮城県の2023(令和5)年度予算案の復旧・復興対策費は驚くほど小さくなりました。県としてはそろそろ手を引きたいのかも知れません。物理的な復興はほとんど終わりなのでしょう。けれど心に傷を負った人たちは、と思うと‥‥。

 ところで、東北三県以外の青森、茨城、千葉はどうなっているのでしょうか。ほとんど話題にならないようですが。

 地震といえば、一ヶ月ほど前に、トルコで直下型地震がありました。トルコとシリアで52,000名を超える死者が出ているとのことです。シリアは内戦の中にあって、被害は反政府勢力のところに集中していて支援物資が届きにくいとのことで心配です。トルコでは建物の被害が相当あるようです。圧死された方が多いとのことです。トルコの耐震基準は日本と同程度とのことなのに何故と疑問に思いました。今の耐震基準になったのは1999年とのことで、それ以前の建物が多かったこと、そして日本ではほとんど考えられないのですが、基準を無視した建物がかなりあったとのことでした。

 阪神・淡路大震災の時は建物の真ん中の階で屈曲したものが多かったのですが、日本でもトルコのようなパンケーキクラッシュのような事があるのでしょうか。

 今年は関東大震災から百年です。半年もしないうちに話題に上る事でしょう。


 マンガの事を書くのが目的のこのコーナーです。一年前にも、じんのあい の『星の輝き、月の影』に触れましたが、3.11に間に合わせるように2巻(最終巻)が出ました。震災と原発事故という二重の苦しみに見舞われた福島の物語です。

 昨年三月の地震では12年前の地震には耐えた本棚が壊れてしまいました。

2023年2月12日日曜日

松本和代の『青空・スキップ』

 この作者のお馴染みの女子高校生のお話です。 作品名は「青空♡スキップ」とハートマークが入っています。

 主人公の秋美は引っ込み思案で、中学時代には近所に住む甲斐今日子以外に友人と呼べる人はいません。引っ込み思案を治そうとする秋美です。ところが甲斐ちゃんは春休みに町の反対側に引っ越します。父親の海外勤務に母がついて行くことになり、親戚の家に預けられることになったためです。春休みの間に甲斐ちゃんを訪ねる秋美ですが‥‥‥。途中でそれとは知らず甲斐ちゃんの従兄の大沢聖一に出会いからかわれるのです。

 色々あって聖一を好きになっていく秋美ですが、ライバルと思しき二年生が現れたりとかがあったりしますが、最後は聖一が秋美の頬にキスして終わります。

 この人のマンガは紆余曲折がありながらもハッピーエンドなので、その意味では安心して読めます。秋美の引っ込み思案は少しは良くなったのかなあと思います。このマンガに登場する大人は秋美の母と聖一の父の二人だけですが、それぞれ変わった(?)性格です。マンガには出てきませんが、甲斐ちゃんの親も面白そうな人のようです。甲斐ちゃんが「あたしのズボラな性格は親ゆずり!!」と言っているほどですから。

 このマンガは昭和56年(1981年)に描かれたものです。初めのほうに電話が掛かってくる場面があります。慌てて階段を駆け下りる秋美です。読み返して、このシーンは今の若い人には理解しづらいのではと思ったのです。携帯電話の普及する前は、電話は一家に一台でした。友だちに電話する時には、誰が出るのか分からずハラハラドキドキしたものでした。

 上記のような細かい点はさておいて、今でも結構読めるマンガだと思います。

 112ページの食事をしている秋美に母が言う「ひじなんかついちゃって」を見て、子供の頃「食事のとき肘をつくな」と母に言われたことを思い出しました。今の親はそんなことを言うのかなぁ。



書名 『青空・スキップ』 マーガレット・レインボー・コミックス 114

出版社 創美社発行・集英社発売

出版年 1982年5月30日初版発行