2014年2月12日水曜日

青木庸の『ドラキュラ伯爵』シリーズ


 青木庸は、朝日ソノラマのサンコミックス・ストロベリー・シリーズからは三冊のマンガが出ています。『マンハッタンの姫君』は読んでいませんが、『ドラキュラ伯爵夏の休日』と『ハーディ・ガーディ・マン』は読みました。
 今回取り上げるのは『ドラキュラ伯爵夏の休日』に載っている四編からなるシリーズです。タイトルからは怪奇もののようですが、コメディーです。

 四編のタイトルとページ数は以下の通りです。
 ドラキュラ伯爵夏の休日 20ページ
 ドラキュラ伯爵春の訪問者 32ページ
 ドラキュラ伯爵ものおもいの秋 16ページ
 ドラキュラ伯爵スーパースター 32ページ

 『ものおもいの秋』以外は、主な登場人物はドラキュラ伯爵と僕(しもべ)の吸血鬼ハーリ、ハイミスの相沢みやこ(27歳でこの頃はハイミスと云われていたのがわかります。平成23年度の平均初婚年齢は妻が29.0歳となっています)、従弟の梅沢梅二郎(夏の休日には登場しません)です。
 以下にあらすじを書きます。

 『夏の休日』は、トランシルバニアから、美女がわんさかいるという夏の軽井沢にドラキュラがやってきます。ヨーロッパでは知られすぎて獲物が少なくなったからです。道を歩く美女の群に心ときめかせ、明日から食事だと張り切るドラキュラです。隣同士の建物になったみやことドラキュラですがその思いはすれ違っています。「チャンス!今年の夏のターゲットは決まり!」「メインストリートの若い娘たちにはちと劣るな このテは無視するに限る」と云う二人の内心の声です。
 弁当を作って張り切るみやこですが、ハイミスの友達が来ることになり、計画がパーになります。しかし兄の子供四人をしっかりとドラキュラに押しつけます。ドラキュラは子供に振りまわされて、教会の前に連れて行かれたりとさんざんな目に遭わされます。
 数日経って、ようやく気を取り直し、美女はあきらめ手近なところからと考えるのですが、みやこを襲おうとした痴漢を退治します。子供達にもすっかりと懐かれ、食事も摂らずに帰国します。
 最後の齣のみやこさんには笑わせてもらいました。
 日本に来る前に、一ページ目でドラキュラはしっかりと日本語の勉強をしているのでした。

 『春の訪問者』は、ドラキュラツアーでトランシルバニアにやって来たみやこと梅二郎それに老夫婦は、オプショナルツアーを蹴ってまでして山の中にやって来ます。そして無事に(?)ドラキュラの城に辿り着きます。色々とドタバタがありますが、みやこはドラキュラを人間と思っています。しかしおばあさんには吸血鬼と指摘され、翌日には急用ができたと、城を去るドラキュラです。
 そしてこれもまた最後の齣でしっかりとコメディーなのでした。

 『スーパースター』ではもう一組の吸血鬼の親子が登場します。息子は自家用ジェット機で世界を飛び回る音楽家で、父親はそのマネージャーです。
 日本公演の楽屋に入り込んだみやこと梅二郎は、息子が吸血鬼なのを目撃してしまいます。そのために攫われて自家用ジェット機でトランシルバニアまで連れて行かれます。
 飛行機事故に見せかけて、親子はふたりを殺そうとするのですが、そこはコメディー、パラシュートで脱出しようとする親子にしがみついてふたりは無事に地上へ。そこは、ドラキュラの城で、みやこはみたびドラキュラと会い、ドラキュラの正体を知ります。
 力を合わせて親子を撃退し(追い返すだけです)、これで晴れてドラキュラの花嫁になれると期待に胸膨らませるみやこですが、気がつくと日本に送還されています。
 最後のページのドラキュラの思いと「スーパースター」の称号にニヤリとするギャップはなかなかのものです。

 このマンガの面白さは、シリアスを決め込もうとするドラキュラと、それに気づかないみやことのギャップにあり、笑いを誘うのでしょう。みやこがドラキュラの正体に気づいてからは笑いの要素はなくなります。
 このギャップをうまく使っているからこそのマンガです。互いにシリアス劇を演じているつもりなのに、それが見事にすれ違っているからこその喜劇とでもいえるでしょう。

 『ものおもいの秋』は、南仏でのドラキュラの思い出の一コマです。

 『ドラキュラ』シリーズの後に載っているマンガは『首』というタイトルの、人形の首をめぐってのきわめてシリアスなマンガです。『ドラキュラ』とは趣が異なります。


 書名『ドラキュラ伯爵夏の休日』
 出版社 朝日ソノラマ サンコミックス・ストロベリー・シリーズ 704
 昭和57年9月28日 初版発行