2012年1月31日火曜日

大島弓子の『詩子とよんでもういちど』

この人のマンガで最初に読んだのは、「綿の国星」です。面白いマンガだなぁ、もっとほかにはないのかなぁと思いました。恥ずかしながら大島弓子を知らなかったのです。
 朝日ソノラマのサンコミックスから何冊か出ているのを見て、買いました。ページをめくって愕然としました。絵が、少女マンガだったからです。綿の国星とは全然違う絵に、本当に同じ人なのかと思ったものです。
 改めて見直してみると、年代が下るにつれて、次第に綿の国星の絵に近づいているのがわかります。

 表題の作品はサンコミックス「誕生!」に入っている作品です。

 「誕生!」は、女子高校生の妊娠を扱ったもので、重いテーマの作品です。母子ともに助かるのかどうか、というところで話は終わっていて余韻が残ります。

 「詩子とよんでもういちど」は、はっきりした年代は書いてありませんが、おそらく第二次世界大戦の前の話のようです。
 詩子の祖父は、病院長です。詩子はおてんばな少女ですが、いとこ政子の婚約者寺内文彦が訪ねてきた日に倒れてしまいます。文彦は院長から詩子は白血病だと聞かされます。
 詩子が気にかかる文彦は、政子との婚約指輪の交換の後で、婚約を破棄してくれといいます。病院を追い出された文彦は、武蔵野のサナトリウムで医者をしています。
 雨の中、詩子はサナトリウムに行きます。文彦にあって倒れた詩子はそのままサナトリウムに入所します。
 サナトリウムには白血病の小さな男の子がいて、詩子と仲良くなります。しかし男の子はしばらくして亡くなります。
 祖父がサナトリウムに来て、ドイツで白血病の治療剤ができたと知らせます。それを学ぶために三年間の留学を文彦に勧めます。しかし詩子を置いていくわけにはいかないと、断る文彦。
 詩子は、文彦が行かなければ一緒にいられるけれど、多くの白血病の患者はどうなると祖父に言われて、文彦をドイツに送り出します。
 しばらく経って(一ヶ月以上)、詩子の病状は悪化します。ドイツで電報を受け取った文彦はすぐに日本に帰ります。しかし船旅なので二週間もかかります。横浜からタクシーで駆けつけて、何とか臨終には間に合います。
 そしてマンガは次の文彦の独白で終わります。
 ぼくの青春は…おわった(中略)ぼくのすべては終わった…

 読んでいて、笑いと最後には涙の、少女マンガの王道を行く作品です。
 ただ、うまくは言えませんが、ありふれた少女マンガとは違う何かがあるからこそ、読んだときから30年経った今になっても引っかかるものがあるように思えるのです。

 なお、白血病が治るようになり始めるのは1960年代後半からとの記述が Wikipedia にあります。


 タイトル 『詩子とよんでもういちど』
 書名 『誕生!』
 出版社 朝日ソノラマ サンコミックス(SCM-310)
 出版年 昭和50年1月25日 初版発行 
  (昭和55年7月30日14版が手元にあるものです)

2012年1月21日土曜日

ちょっと休憩 『リカの想い出 永遠の少女たちへ』

表題の本は、リカちゃん人形の発売20周年を記念して出版された、マンガとエッセイ集です。リカちゃんの発売が昭和42年(1967年)で、本の出版は1986年です。

 目次の代わりにプログラムが載っています。

 ご挨拶と祝辞ーーマンガ家二人(大島弓子とまつざきあけみ)とその他五人(谷山浩子、岡安由美子、群ようこ、美保純、伊藤比呂美)が書いています。
 記念撮影・アルバム・オブ・リカーー1967〜1970 1972〜1974 1977〜1986 リカちゃん人形の写真が載っています。
 談話室ーー第一部から第四部まであり、18名のマンガ家のマンガが載っています。
 もうひとつの同窓会ーー高橋源一郎、日比野克彦、秋山道男、野田秀樹の四人が書いています。
 インフォメーションーー牧美也子ほか二人が書いています。

 牧美也子はある意味ではリカの生みの親です。二ページのエッセイでそのことを書いています。
 挨拶と祝辞のマンガ家二人は、当然のことながらリカちゃん世代ではありません。岡安と美保はリカちゃんで遊んだと書いてあります。

 談話室のマンガ家は、何とか、人形(いろいろな人形があって、それはそれで面白いのですが)に話を持って行こうと苦心しています。実際にリカちゃんと遊んだ人もいるのですが、それはほんの少数です。
 木原敏江は「私の子供時代」のタイトルで二ページを描いていますが、人形は出てきません。坂田靖子は「わたしの博物学的子ども時代」で十ページ描いていて、これにも人形は出てきません。このマンガは印象に残っていて、いかにも彼女らしいと思います。
 子供のころは、うちのまわりは一面のたんぼで、から始まる子供のころの想い出です。川で釣りをしたり、木登りが好きだったり、と外でよく遊んでいたようです。外で遊んでいないときは、うちで本をよく読んでいたとか。幼稚園の時に父親からもらった理科図鑑を、今も持っていると描いてあって、感心したりもしました。最後の大きな齣は、「ときどきうちの前でそら一面の夕焼けを見ると 世界は なかなか広かったのであります」との言葉で終わっています。画面の八割が空で、残光と三日月とねぐらに帰る鳥、そしてたたずむ子供のころの作者が印象的です。

 本のタイトルが「リカの想い出」なのに、人形が全然出てこないマンガを載せたことにも驚きました。編集の香山リカと土肥睦子の度量の大きさに感謝です。

 リカちゃん人形で、リカちゃんハウスで遊ぶことを「ハウスしよう」と言っているのを聞いたときは、気に留めませんでしたが、play house の意味を考えれば、納得のいく言い方です。


 書名『リカの想い出』
 発行所 ネスコ
 発売元 文藝春秋
 1986年7月30日 第1刷

2012年1月11日水曜日

樹村みのりの『菜の花畑のこちら側』

この人のマンガは何から読んだのか記憶にありません。1949年生まれとのことなのでいわゆる24年組のように思えるのです。ですが、デビューを見ると1964年、14歳の時とのことなので、直接には関係がないようです。
 個性的な絵を描く人で、一度見たら忘れることはないでしょう。

 さて、表題の作品は 1〜3 の三つから構成されていて、別冊少女コミックの1975年11月号から1976年1月号までに連載されたとの記載がありました。
 ストーリーは以下の通りです。

 幼稚園の年長さんの女の子、まあちゃん、お母さんとおばちゃん(お母さんのお姉さん)の三人は菜の花畑にある少し広めのおうちに住んでいます。近くには、お母さんの妹のあきおばちゃんが住んでいます。近いこともあって、赤ちゃんを連れてよく遊びに来ます。
 二階に手を入れ、回転の早いことを考慮して学生を下宿させることにします(このマンガが描かれたのは、食事付きの下宿がまだまだ多い頃でした)。男の学生がいいだろうと張り紙をします。
 そこに押しかけてきたのは寮を追い出された(本人に言わせると自主退寮した)四人の女子大学生(モトコ、森ちゃん、ネコちゃん、スガちゃん)です。いろいろとなんだかんだがありまして、四人はまあちゃんのお家の二階に下宿することになります。ここまでが、その1です。季節は春の終わりから夏の初めにかけてでしょうか…。

 まあちゃんがドングリを拾う場面からお話が始まるのが、その2です。森ちゃんとネコちゃんも一緒です。途中でお向かいの水谷さんに会ったりして、お家まで帰ってくると、まあちゃんより少し大きい知らない男の子がいます。
 たけちゃんという子で、あきおばちゃんが預かった、義兄の子とのことです。義兄夫婦の間で、離婚についての話し合いがされることになって、預かったのです。カギッ子で、この機会に人の多い家庭の雰囲気を味わわせたいと思って、連れてきたとのことです。
 なかなか手に負えない子だったのですが、次第に打ち解けていき、遊園地にもまあちゃんと一緒に、四人の大学生のお姉さんに連れて行ってもらいます。遊園地から帰ってくると、家の前にたけちゃんの家の車が止まっています。
 義兄夫婦はもう一度やり直すと言うことで、たけちゃんを連れて戻ります。車が出るまでの間の、まあちゃんの家族および女子大生とたけちゃんの会話がクライマックスなのでしょう。動き始めた車の窓越しに、最後の憎まれ口を叩くたけちゃんです。
 車が去った後の空からは雪が降ってきます。

 その3は、年末から始まります。下宿に残る森ちゃんとネコちゃんは、まあちゃんと一緒に、帰省する二人を見送り、お家に帰ってきます。お母さんとおばさんは、出産の手伝いで親戚の家に出かけるところです。二、三日中には帰ると言って出かけます。
 広い家の中に三人で、まあちゃんは八時半には寝てしまいます。雨が降ってきて、二人は寮の時の怪談話を思い出しています。その時玄関をノックする音がして、浜口つとむという青年が訪ねてきます。おばさんからの電話で、女三人だと心配だろうからと来たと言います。二人は自分の部屋に戻ります。
 次の朝、まあちゃんは一人で寝かされたことに文句を言います。
 つとむ君は一葉の写真を二人に見せて、この人の消息を知らないかと尋ねます。つとむ君と、隣にはきれいな女の人が写っています。たきちゃんと言ってつとむ君は好きだったのですが、「聞き取りにくい声は耳に手をあてて、いく度も聞くので、はずかしくなって心を打ち明ける機会を逃がした」と言います。
 お母さんたちが帰ってくると、青年の姿は消えています。二人の写った写真を見ておばさんは言うのです。つとむ君は二年前の今頃亡くなったこと、たきちゃんは大きな農家に嫁いで、今は幸せに暮らしていると。そして、小さいときの病気がもとで片方の耳が聞こえなかったことを。そのことはつとむ君は知らなかったのでした。
 最後の齣で除夜の鐘が鳴ります。

 以上があらすじなのですが、その1に登場する女子大学生四人の一人ひとりがおのおの個性を十分に発揮して、存在感にあふれています。さらには、目的のためには手段を選ばず(?)、男子学生が下宿するのを阻止しようとする、そのヴァイタリティーには驚かされます。現実にこんな事をする人がいるかどうかは措いておきますが。
 その2では、向かいの水谷さんとはここで初めて会ったことになっていますが、半年以上も経って初めてというのは、なんか変な感じがしました。
 たけちゃんが次第次第に変わっていく様子は、実によく描かれていると思いました。子どもは親の背中を見て育つと言いますけど…。
 その3では、つとむ君はまあちゃんには見えない設定になっていること、お母さんたちが帰ってきたときには姿が消えていることから、たきちゃんを直接に知っている人とは、会えないくらい恥ずかしがりなのかなあと思ったものでした。

 『こちら側』を読み返してみて、あれ、解放区の場面がないと思ったら、『むこうとこちら』でした。まあ、ネコちゃんのノーブラのエピソードなんですけど。

 『菜の花畑のむこうとこちら』の141ページのコラムに四人の名前は?とあります。わたしなりに考えたのですが、森ちゃんとネコちゃんはこの名前でしか登場しません。『むこうとこちら』の125ページから見ると、ネコはミネコの省略なのでしょう。森ちゃんは森絵なのかなあと考えます。伊東愛子のマンガに登場する女の子です。山田ミネコも伊東愛子も、樹村みのりと同じ年の生まれです。


 タイトル『菜の花畑のこちら側』
 書名『ポケットの中の季節2』
 出版社 小学館 フラワーコミックス FC-92
 出版年 昭和52年8月20日初版第1刷発行

 なお、以下の本には続編を含めて載っています。
 書名『菜の花畑のむこうとこちら』
 出版社 ブロンズ社
 昭和55年3月25日初版発行

 デビュー作を含む初期作品集は
 書名『ピクニック』
 出版社 朝日ソノラマ
 昭和54年9月25日初版発行
 として出版されています。1964年から1967年の作品が入っています。


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