2012年1月11日水曜日

樹村みのりの『菜の花畑のこちら側』

この人のマンガは何から読んだのか記憶にありません。1949年生まれとのことなのでいわゆる24年組のように思えるのです。ですが、デビューを見ると1964年、14歳の時とのことなので、直接には関係がないようです。
 個性的な絵を描く人で、一度見たら忘れることはないでしょう。

 さて、表題の作品は 1〜3 の三つから構成されていて、別冊少女コミックの1975年11月号から1976年1月号までに連載されたとの記載がありました。
 ストーリーは以下の通りです。

 幼稚園の年長さんの女の子、まあちゃん、お母さんとおばちゃん(お母さんのお姉さん)の三人は菜の花畑にある少し広めのおうちに住んでいます。近くには、お母さんの妹のあきおばちゃんが住んでいます。近いこともあって、赤ちゃんを連れてよく遊びに来ます。
 二階に手を入れ、回転の早いことを考慮して学生を下宿させることにします(このマンガが描かれたのは、食事付きの下宿がまだまだ多い頃でした)。男の学生がいいだろうと張り紙をします。
 そこに押しかけてきたのは寮を追い出された(本人に言わせると自主退寮した)四人の女子大学生(モトコ、森ちゃん、ネコちゃん、スガちゃん)です。いろいろとなんだかんだがありまして、四人はまあちゃんのお家の二階に下宿することになります。ここまでが、その1です。季節は春の終わりから夏の初めにかけてでしょうか…。

 まあちゃんがドングリを拾う場面からお話が始まるのが、その2です。森ちゃんとネコちゃんも一緒です。途中でお向かいの水谷さんに会ったりして、お家まで帰ってくると、まあちゃんより少し大きい知らない男の子がいます。
 たけちゃんという子で、あきおばちゃんが預かった、義兄の子とのことです。義兄夫婦の間で、離婚についての話し合いがされることになって、預かったのです。カギッ子で、この機会に人の多い家庭の雰囲気を味わわせたいと思って、連れてきたとのことです。
 なかなか手に負えない子だったのですが、次第に打ち解けていき、遊園地にもまあちゃんと一緒に、四人の大学生のお姉さんに連れて行ってもらいます。遊園地から帰ってくると、家の前にたけちゃんの家の車が止まっています。
 義兄夫婦はもう一度やり直すと言うことで、たけちゃんを連れて戻ります。車が出るまでの間の、まあちゃんの家族および女子大生とたけちゃんの会話がクライマックスなのでしょう。動き始めた車の窓越しに、最後の憎まれ口を叩くたけちゃんです。
 車が去った後の空からは雪が降ってきます。

 その3は、年末から始まります。下宿に残る森ちゃんとネコちゃんは、まあちゃんと一緒に、帰省する二人を見送り、お家に帰ってきます。お母さんとおばさんは、出産の手伝いで親戚の家に出かけるところです。二、三日中には帰ると言って出かけます。
 広い家の中に三人で、まあちゃんは八時半には寝てしまいます。雨が降ってきて、二人は寮の時の怪談話を思い出しています。その時玄関をノックする音がして、浜口つとむという青年が訪ねてきます。おばさんからの電話で、女三人だと心配だろうからと来たと言います。二人は自分の部屋に戻ります。
 次の朝、まあちゃんは一人で寝かされたことに文句を言います。
 つとむ君は一葉の写真を二人に見せて、この人の消息を知らないかと尋ねます。つとむ君と、隣にはきれいな女の人が写っています。たきちゃんと言ってつとむ君は好きだったのですが、「聞き取りにくい声は耳に手をあてて、いく度も聞くので、はずかしくなって心を打ち明ける機会を逃がした」と言います。
 お母さんたちが帰ってくると、青年の姿は消えています。二人の写った写真を見ておばさんは言うのです。つとむ君は二年前の今頃亡くなったこと、たきちゃんは大きな農家に嫁いで、今は幸せに暮らしていると。そして、小さいときの病気がもとで片方の耳が聞こえなかったことを。そのことはつとむ君は知らなかったのでした。
 最後の齣で除夜の鐘が鳴ります。

 以上があらすじなのですが、その1に登場する女子大学生四人の一人ひとりがおのおの個性を十分に発揮して、存在感にあふれています。さらには、目的のためには手段を選ばず(?)、男子学生が下宿するのを阻止しようとする、そのヴァイタリティーには驚かされます。現実にこんな事をする人がいるかどうかは措いておきますが。
 その2では、向かいの水谷さんとはここで初めて会ったことになっていますが、半年以上も経って初めてというのは、なんか変な感じがしました。
 たけちゃんが次第次第に変わっていく様子は、実によく描かれていると思いました。子どもは親の背中を見て育つと言いますけど…。
 その3では、つとむ君はまあちゃんには見えない設定になっていること、お母さんたちが帰ってきたときには姿が消えていることから、たきちゃんを直接に知っている人とは、会えないくらい恥ずかしがりなのかなあと思ったものでした。

 『こちら側』を読み返してみて、あれ、解放区の場面がないと思ったら、『むこうとこちら』でした。まあ、ネコちゃんのノーブラのエピソードなんですけど。

 『菜の花畑のむこうとこちら』の141ページのコラムに四人の名前は?とあります。わたしなりに考えたのですが、森ちゃんとネコちゃんはこの名前でしか登場しません。『むこうとこちら』の125ページから見ると、ネコはミネコの省略なのでしょう。森ちゃんは森絵なのかなあと考えます。伊東愛子のマンガに登場する女の子です。山田ミネコも伊東愛子も、樹村みのりと同じ年の生まれです。


 タイトル『菜の花畑のこちら側』
 書名『ポケットの中の季節2』
 出版社 小学館 フラワーコミックス FC-92
 出版年 昭和52年8月20日初版第1刷発行

 なお、以下の本には続編を含めて載っています。
 書名『菜の花畑のむこうとこちら』
 出版社 ブロンズ社
 昭和55年3月25日初版発行

 デビュー作を含む初期作品集は
 書名『ピクニック』
 出版社 朝日ソノラマ
 昭和54年9月25日初版発行
 として出版されています。1964年から1967年の作品が入っています。


 今日で10ヶ月になります。

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