2011年7月31日日曜日

室山まゆみの『ハッピー・タンポポ』

 室山まゆみと云えばまずは『あさりちゃん』なのかもしれません。おそらく女の子向けのマンガとしては、一番巻数の多いマンガでしょう。30年以上も描かれています。
 ここで取り上げるのは、それよりも古いマンガです。

 ウィキペディアに『ハッピー・タンポポ』と云う項目があります。それによると、1977年から約四年間連載されたとのことです。作品の特徴や登場人物については詳しく載っています。野々タンポポと藪小路いばらの二人が主役です。

 単行本には収録されていなかったのですが、『あさりちゃん』94巻に一部の7話分が収録されました。あとがきマンガによると、小学五年生と六年生に連載されたとありました。さすがに学年誌は見ていませんが、昭和50年代に小学館で出していた、ティーンコミックというA5版の雑誌があり、その「室山まゆみ あさりちゃん」に収録されています。これが全部なのかわかりませんが。また、ウィキペディアには「コロコロコミック」で総集編が刊行されたとありますが、こちらは見ていません。

 このマンガで印象に残っている場面があります。94巻にもある「さらば短足ズン胴」の、二ページ目、ずらりとハンガーに掛けられた11着(見えるところだけで)のオーバーオールです。すべて同じデザインですが、母親は「タンポポ だって、 毎日 かえてる でしょ。」と言います。
 これを見たときに思い出したのが、"江戸の粋"でした。
 いろいろと禁制があったから、表は飾れないけれど、見えないところに凝るというあれです。そこまで作者が考えたかはわかりませんが、そんなことまで思いを馳せらされました。そして、ニヤリとしてしまったのでした。
 もちろん、ギャグマンガですので、きちんとその作法にのっとって、笑わせるところあり、オチはきっちりついています。

 「初デートはムフフのフ」では二人のあこがれのカケスくんから、別々に、同時刻、同じ場所にきてくれるように言われ、舞い上がります。その場所に行って、にらみ合う二人でしたが、たのまれたのは合宿の炊事当番でした。
 二人ともうまく料理ができず、最後の手段と、店屋物をとってしまい、二人で料理屋で皿洗いをするというオチになります。

 このほかにも面白い作品が多いのですが、いまは手に入れるのが難しいのが残念です。


 タイトル『ハッピータンポポ』
 書名『あさりちゃん』94巻
 出版社 小学館 てんとう虫コミックスTC-1206
 2010年12月29日 初版第1刷発行
 
 ティーンコミック第4号 昭和54年11月15日発行 
 ティーンコミック第6号 昭和57年2月20日発行 デビュー作が載っています
 ティーンコミック第8号 昭和58年4月19日発行

 デビュー作の『がんばれ姉子』は、4ページの小品です。これもいわゆる少女マンガと言うよりは、ギャグマンガでしょう。

2011年7月18日月曜日

北原文野の『もうひとつのハウプトン』

 この人の名前を知ったのは、「プチフラワー」の創刊号でした。それ以来7年ほどもこの雑誌に書いていたのです。「プチフラワー」に最後に書いたのは Pシリーズの『L6外を夢見て』でした。『Pシリーズ』以外の作品もあるのですが、やっぱりこのシリーズが浮かんできます。
 これほど長く描いていたのに、背表紙に名前が載ることはありませんでした。でも、これらの作品が好きだったかたは、少なくなかったはずです。

 創刊号の『ぼくは ぼくに…』がデビュー二作目とのことです。男の子の心理の変化がうまく表現されています。作者は、分身ものといっていますが。

 ここで取り上げるのはデビュー作です。この作品は1980年1月別冊少女コミック増刊号に掲載されたとのことで、リアルタイムでは読んでいません。

 母親が入院して、叔母のもとに預けられたデビィは、ハウプトンの、晴れていても灰色の空にうんざりしています。そんなデビィを叔母は美術館に連れて行きます。「絵なんか興味がない」デビィですが、一枚の絵の前で立ち止まります。その絵に描かれた太陽からの光でデビィの影が足下に落ち、その絵の中に落ちていきます。

 青い空と、緑の村に落ちたデビィは、少し年嵩の少年ジョシュア・タッカーと出会います。ジョシュアは「ここはハウプトンだよ」と言います。ジョシュアはデビィを連れて、附近の案内をします。もとのところに戻ってくると、ジョシュアのおばが現れ、その後で二人はデビィの前から消えてしまいます。
 すぐに現れたジョシュアは、こめかみに怪我をしています。ジョシュアの時間では一年が経っていたのです。

 大人になっていくかつての少年ジョシュア・タッカーを見守る(?)デビィ。
 大きな街に出て、結婚をして、それでも絵で食べていこうとするジョシュアでしたが、妻を亡くし、故郷のハウプトンに帰る決心をします。
 ところがかつての青い空を失い、街へと変わってしまったハウプトンを見てジョシュアは叫びます。「うそだ これがハウプトンなものか」と。
 そこに現れたデビィにジョシュアは言います。「デビィ デビィだね?」「変わらなかったのは… きみだけだよ」と。

 「あら あなた影が」「見まちがいよね」との叔母の声で我に返るデビィでしたが…。目の前に次々に現れる絵は、デビィがジョシュアと一緒に観た風景でした。そして最後の絵は、「変わらなかった少年」と題されたデビィの肖像でした。
 「変わらないのは… きみだけだよ」「みんな 一瞬のもの だから 一瞬のものに しがみついて 描きとどめたい」と言ったジョシュアの言葉を思い、涙を流すデビィ。

 美術館に来るときに見た、空き地の切り株を、「嘆きの木」だったかもしれないと思うデビィでした。
 デビィは絵を描く気になり、ハウプトンの街を描き始めます。「しかしひどい絵」とつぶやきながら。

 最後のページでは、デビィを驚かそうと、知らせずに退院した母親が登場します。
 最後のコマの叔母のセリフは、シリアスになりすぎたことに対しての、作者の照れ隠しなのかもしれません。

 あとがきで作者は、「絵の光が当たって影ができるシーン」からするすると話ができたと書いています。
 ストーリーとしては、タイムトリップになるのでしょうが、傍観者のはずのデビィを最初と最後でジョシュアが見るからこそ、物語が成立しているのです。
 これがデビュー作とは思えないほどに完成された作品です。

 さて、この、変わるものと変わらないものというのは、語り始めたら終わりがなくなりそうなことなのですが、絵の本質にも関わってくることなのでしょう。とてもここで取り上げることはできなさそうです。

 以下、どうでもいいような独り言です。
 美術館で開かれているのは、ジョシュア・タッカー生誕百年記念展なのですが、彼は、いくつのときにハウプトンを離れ、いくつで妻を失い、いくつのときに最後にデビィに会い、いくつで亡くなったのでしょうか。ハウプトンが、緑の多い村から、彼の知らない街に変貌するまでには、それなりの時間が必要だろうと思うのですが…。


 書名『もうひとつのハウプトン』
 発行所 SG企画
 1988年7月20日 初版発行

2011年7月11日月曜日

清原なつのの『ゴジラサンド日和』

 この人のマンガには、はまるものがありました。特にタイムトラベルのシリーズには。また、『花図鑑』シリーズも面白く読みました。でも、まずは、表題のマンガから取り上げます。

 N市H山動物園(もちろん名古屋市東山動物園です)のセメントの恐竜のところからお話が始まります。
 春三月、四月から高校三年生になる久里子は、失恋したばかりです。その回想の中に手話をするチンパンジーがでてきます。利口な馬ハンスでないのは、久里子が高校生なので、そのほうが話として作りやすいからでしょうか。
 京都大学霊長類研究所のアイ・プロジェクトは1978年から始まっているとのことですが、このマンガの頃はまだ一般に広く知られてはいなかったはずです。

 久里子に声を掛けたのは、70歳を過ぎたおじいさん、落ち込んでいる久里子を元気づけようとします。その久里子の回想の場面で、自分では会話をしているつもりで、相手の顔色しか見ていなかったことに気づきます。
 おじいさんは若い頃に、「相手の心を 読み取る能力が あれば」と、旧制四高の学生の頃の初恋の話をします。背景には旧制四高の「南下軍の歌」が流れています。
 30年ぶりにあった初恋の人と見た映画が1954年の「ゴジラ」だったのでした。

 久里子に「チンパンジーは どこですか?」と声を掛ける青年が現れ、説明をする久里子。そんな久里子を見て、おじいさんは言います。「当たりは ひとつだけじゃない 前後賞も 組みちがいもある」と。「新説 赤い糸の伝説」には、絵を観て、吹き出しそうになりました。
 チンパンジーのところに行くと、青年はまだいました! 青年にチンパンジーの話をする久里子、青年は久里子に言います、「チンパンジーと いっしょに サーカスに 転職するよ」「いじらしい じゃないか」と。

 久里子は、四月からこちらの大学生になるという青年と、つきあうことになります。

 陽気のよくなった頃におじいさんが倒れたときいて、二人はお見舞いに行きます。病気で倒れたのではなくて、通信販売で買ったゲートボール養成ギプスのせいだったのですが。
 おじいさんから見せられた初恋の人の写真を見て、びっくりする二人。なんと、息子さんの嫁さんにそっくりなのでした。

 おじいさんは、自殺さえしかねないように見えた久里子が気になって、声を掛けたのかもしれません。でも、清原なつのの手にかかると、そんな気配はどこかにいってしまうようです。気持ちの切り替えを久里子は学んだように思えます。

 さて、清原なつののマンガといえば、落書きにその魅力を感じるのはわたしだけでしょうか。このマンガにはそれほどありませんが、10(196)ページ3齣目はCMそのままですし、32(218)ページ4齣目は面白いことが書いてあります。また、31(217)ページ5齣目の背景には人に紛れ込んでいる4種類の動物がいたりします。()内は、ハヤカワ文庫版のページです。

 この本の三番目には、『思い出のトロピカル・パラダイス』が載っています。読み終えて、ハインラインの『夏への扉』が思い浮かびました。気が向いたら、改めて書いてみようと思います。


 書名『ゴジラサンド日和』
 出版社 集英社 りぼんマスコットコミックス RMC-303
 1984年7月18日 第1刷発行

 ハヤカワ文庫
 タイトル『ゴジラサンド日和』
 書名『私の保健室へおいで・・・』
 2002年6月10日印刷
 2002年6月15日発行