2018年12月5日水曜日

坂田靖子の『パパゲーノ』


 坂田靖子については、以前『リカの想い出 永遠の少女たちへ』で、触れています。
 この人はいろいろなジャンルの作品を描いています。その中から何を持ってくるのか悩みましたが、今回は表題作を含む短篇集を選んでみました。

 この本には表題作『パパゲーノ』の他に五作品が入っています。一つずつ観ていきたく思います。

 まずは『パパゲーノ』と『めりー・ひーる』についてです。
 パパゲーノと云えば思い浮かぶのはモーツァルトの「魔笛」に登場する人物です。
 でもこのマンガに出てくるパパゲーノは草と木でできた小さな家に住んでます。ページをめくると、パパゲーノの大きさがわかります。ライオン狩りに出かけるのですが、ダンディライオンなのです。勝ったり負けたりしているようです。タンポポの草丈の 1/3 もないでしょうか。それでも家の屋根で栽培しているキノコを食べ、ダンディライオンに勝った時にはタンポポコーヒーを飲みと静かに暮らしていたのです。
 ところがある日フィガロの歌を歌いながら現れた少年に静かな生活は破られてしまいます。パパゲーノの家の屋根のキノコは盗られるは、魚を釣り上げると横からかっさらうは、とパパゲーノの日々は落ち着かなくなります。そんな雨の日、フィガロの歌を歌いながら川辺を走っている少年は足を滑らせ川に落ちてしまいます。慌てて家を出て少年を助けようとするパパゲーノですが、少年は見つかりません。
 もとの静かな生活が戻ってきます。遠くから来たカメが山を越えた向こうでフィガロの歌を聞いたと教えてくれます。
 最後の齣がカーテンコールと題されて、コーヒーを飲んでいるパパゲーノとカメの前にフィガロの歌を歌いながら少年が現れます。この齣は何を意味してるのでしょうか。

 三番目に載っているのが『めりー・ひーる』です。繁みの中に棲んでいる妖精のようなものです。羽はありません。かんしゃく持ちでかなり我が儘なようです。めりー・ひーるが茨を抜けて森の中に入ると魔女の家に着きます。魔女は大きな鍋で何かを煮ています。地下で眠る龍(?)を起こす薬だそうで、龍に乗ると星まで行けるとのことです。そんなことに興味のないめりー・ひーるは帰るのですが、一陣の風(?)で気が変わり魔女のところに戻ります。ところが扉は開きません、魔女と龍はいつもめりー・ひーるの居るところで彼女を待っています。
 さて、どちらが先に家に帰ろうとするのでしょうか。

 この二作品はファンタジーなのですが、何も変わったことは起きていません。身体が小さいとか、カメが話すとか、魔女と龍が出てきてるじゃないかとかは置いておいてください。不思議なことが起こらなくてもファンタジーになるのだなぁと、特に『パパゲーノ』を読みながら考えてました。

 四作目は『フロスト・バレー』です。
 冬の、とは云っても冬至祭なのでまだ本格的な冬ではないはずなのですが、夜のお話です。キング・フロストの落とした冬至祭のタネが原因で何でもかんでも凍り付くと云うもので、結局は夢オチになっているのですが、面白いファンタジーです。

 五作目の『壁紙』は、「マザー・グース」のいろいろなお話がもとになってできています。終わりから三ページ目の、少年の「でも……誰かいるよ 誰か……ぼくがいないと困る人が……」はなかなかに考えさせられるセリフです。マザー・グースを知らなくても面白く読めると思います。

 六作目はアンデルセンの「ナイチンゲール」のマンガ化です。

 さて、二作目ですが、『海』、この短篇集の中では一番気に入ったものです。
 としゆき少年の夏休みの話です。小さい頃に見た図鑑のせいで海が嫌いになったとしゆきですが、両親は海水浴が大好きです。
 夏休みの土日に海辺のおじいさんの家に行くことになります。早速海に行こうとする両親を振り切ります。夜、海の音を聴きながら思います、「枕の下が海だ おじいちゃんはこんなとこにすんでてなんともないのかな」と。
 翌日、親子三人の海水浴があり、その後海沿いの道を歩くとしゆきとおじいさんの場面になります。「おじいちゃん海がこわいの?」「こんなでかいものこわいにきまっとるだろう!」
 おじいさんに買ってもらった帽子をかぶり一人海辺の道を歩き、ガードレールに寄りかかり海を眺め波を聴くところで終わっています。

 何の事件も起こらないありふれた日常を描いただけのマンガなのですが、妙に心に残ります。ほとんど二日間のお話なのですが、としゆきの成長を感じることができます。それは直截には描かれていませんが、最後の海を見るシーンでそれを表していると思えます。


 書名『パパゲーノ』 坂田靖子傑作集 
 出版社 MOE出版
 1989年4月 第1刷



 今日からから九年目になります。この一年は五回だけでした。次の一年はどうなることでしょう……



 【追記】2019年7月31日
 先日、「世界史を変えた異常気象」を読んでいましたら、1941年にソ連に侵攻したドイツ軍は11月に寒波に襲われ、12月上旬には身動きがとれなかったとありました。積雪の記載はありませんが、モスクワで零下25.9度まで下がり、場所によっては零下50度にもなったとあります。知らなかったとはいえ、12月上旬でこんな事になった年もあったなんて。
 『世界史を変えた異常気象』2019年4月30日 第1刷発行 田家康
 日経ビジネス人文庫 日本経済新聞社


 【さらに追記】2019年12月5日
 今年は北日本では12月上旬に40 cm を超える積雪のあったところもあり、うっかりしたことは書けないなぁと思い知らされるこの頃です。

2018年7月31日火曜日

江島絵理の『柚子森さん』


 最終五巻の出たのが五月なので、新しいマンガです。普段はこんなに目の大きな女の子の表紙のマンガはめったに読まないのですが、この時はなんだか呼ばれたような気がして買ったのです。

 第一・二巻の登場人物は三人だけです。小学四年生の柚子森楓と高校二年生の野間みみかとみみかの同級生のしーちゃん(第二巻で志摩栞と柚子森さんに自己紹介をしています)です。第三巻では、その16にちらっと出ていた柚子森さんの同級生がその18.5で、りりはという名前で出てきています。第四巻ではその22までは、りりはと同級生の五十鈴がメインです。後半はひとりぼっちの柚子森さんです。第五巻では、結局仲直りするみみかと柚子森さん、そして親友になったりりはと五十鈴の四人といったところでしょうか。

 みみかが初めて柚子森さんに出会うのは、見開きにしゃがんでいる柚子森さんと猫のシーンです。この時は防犯ブザーを鳴らされかけます。その時に財布を落とし学校帰りに財布を捜すみみか、そこを通りかかった柚子森さん。柚子森さんのおかげで財布は見つかります。そこから二人は付き合い(?)始めます。七つ年上のはずなのに、みみかは柚子森さんに敬語で話すし、雷の怖いみみかは柚子森さんに怖がらせられないように慰められるしと、立場が逆転しています。
 そんな柚子森さんですが、しーちゃんにみみかのことをいろいろ聞かされて、嫉妬します。しーちゃんが帰った後で、柚子森さんの告白があり、悩んだ末のみみかの「私も好きです」があり、両想いだと知る二人です。
 その18.5で、りりはは柚子森さんに「あなたの大切なもん、ぜんぶ奪ってあげる」と言います。りりはは五十鈴を誘って、柚子森さんとみみかの後を付けます。柚子森さんと別れた後のみみかに近づくりりはですが、みみかに相手にされません。みみかのバッグから落ちたマンガを見て五十鈴が食いつきます。そのおかげでりりはの計画は成功します。
 翌日、柚子森さんがみみかを尋ねるとそこにはりりはと五十鈴がいます。りりはの言うことを真に受けて、みみかは柚子森さんとの付き合いを止めてしまいます。二人はそれぞれ胸に空洞を抱えます。一方りりはは作戦通りだったのですがちっとも楽しくありません。
 ある日、みみかのことを想い雨に打たれている柚子森さんにしーちゃんが声をかけます。みみかのうちに特攻かけようとするしーちゃんですが、涙を零している柚子森さんを見かけてりりははしーちゃんに跳び蹴りをして柚子森さんと逃げます。りりはは、みみかと仲違いさせたのは自分の計画だったことを話します。実はりりはも柚子森さんを特別な目で見ているのです。その柚子森さんから「腹黒くても。いまのりりはのほうが好きかな。」と言われるりりは。やっとりりはに追いついた五十鈴が見たのはにこ~としているりりはです。
 柚子森さんはりりはと別れたその足でみみかのところに向かいます。柚子森さんとみみかのやり取りがこのマンガのクライマックスなのでしょう、とても四年生とは思えないセリフが飛び交っています。道端で抱き合う二人をちょっと悔しそうに見やるりりはです。
 しーちゃんを加えた五人で夏祭りに行くところでメインの話は終わりです。柚子森さんとみみかの二人のブランコでの会話がここのキモです。みみかの「先に大人になって待ってますから」に「待ってて」と答える柚子森さん。
 最終話は柚子森さんの中学の入学です。毎日あなたを失って、会うたびあなたにまた恋をする、とのみみかの思いで終わっています。唄のセリフにあったような……。

 このマンガは徹頭徹尾女の子しか登場しません、男の子は遠景です。以前に扱った矢代まさこの「シークレット・ラブ」はレズを扱ったものですが男が出てきています。というより、女の子が女の子が好きなのに気づいて姿を消すというお話です。また少女マンガで女の子同士のキスシーンを初めて描いたといわれる山岸凉子の「白い部屋のふたり」は、舞台が外国で二人とも15歳ぐらいだったような。
 五巻まで続いたにしては、最終話を除いては時間は数ヶ月しか経っていません。それでもずいぶんといろんな事があって、と言ってもそれは終わりの二巻なのですが、時間が経ったように感じられます。
 マンガとはいえ、小学四年生とは思えないセリフの数々、でもそれも含めて面白く読めました。
 最終話の「私が一目で恋に落ちた、あのときの柚子森さんにはもう会えない。二度と会えない。」のシーンで、脳裏を掠めたのは「レ・ミゼラブル」の終わりのほうでジャン・ヴァルジャンが小さかったコゼットの服をみて涙を流す場面です。中学三年の頃に読んだと思います。章ごとにストーリーとは直接関係のない話が入っていて何故だろうと思いつつ読んだ記憶があります。

 「みみか」を一瞬「みかか」と読みそうになったのは2ちゃんねるに毒されているのでしょうか。


 書名『柚子森さん』
 出版社 小学館 ビッグスピリッツコミックススペシャル
 2016年12月17日初版第1刷発行 ① 大正義。
 2017年  3月15日初版第1刷発行 ②  最最最の高。
 2017年  7月17日初版第1刷発行 ③  1ページごとにため息ついて
 2017年15月17日初版第1刷発行 ④ 全ページが神域
 2018年  5月16日初版第1刷発行 ⑤  祝福につつまれる至高のガールミーツガール。

↑帯の惹句です

2018年5月31日木曜日

永野のりこの『GIVE ME(くれくれ)たまちゃん!』


 永野のりこといえば、眼鏡の少年(マッドサイエンティスト)とおかっぱの女の子が定番ですが、このマンガはちょっと違います。眼鏡の中学生と三つ編みの女の子が主役です。
 帯には「いつものメガネのマッドサイエンティストが女の子をアレするマンガと思ったら大まちがい ひとあじ違う永野のりこ ハンカチは、5枚じゃ足りない!」とあります。確かにハンカチは5枚では足りないと思います。けれどもちろんお涙ちょうだいではありません。マンガに必要な笑いがちりばめられています。

 このマンガは1989年から描かれたもののようで、日本はバブル経済の真っ最中でした。だからこそ帯に「お大尽だよぅ」とあるのも頷けます。
 あらすじについては「つれづれの館」の「漫画資料室」を見て戴ければ幸いです(www.jakushou.com/ture/manga/mei/tama.html)。
 終戦直後からコールドスリープで平成の世に甦る女の子のお話です。

 それでは、私なりに面白いと思うところを少し書いてみます。

 2章の「マリラのようなツッコミをっ」は赤毛のアンからのものでしょう。同じページと次のページにかけては泣くべきなのか、笑うべきなのか、道の真ん中でがつがつと食事をするおたま。せっかくの名場面が……。
 この章からレギュラーの佐渡金山(さどかねやま)もり子が登場します。
 3章でおたまが還(カエル)と同学年で八ヶ月生まれが早いことがわかります。カエルの好きな子がイライザと名乗った女の子なのが気を失ったカエルの回想に出てきます。
 そして4章で、もり子がイライザであることが読者にはわかります。カエルがそれを知るのは21章なのですが。
 8章でもり子の祖父佐渡金山日出邦(じいさん)が出てきます。日本一、いや世界一の大金持ちですが、おたまには徹底的に優しく振る舞います。敗戦後のどさくさで行方不明になった妹のお給とそっくりなおたまなのですから。9章でおたまとお給が同一人物と気づくカエルですが、そこはマンガ、いろいろと邪魔が入り21章までじいさんには話せません。
 10章の佐渡金山の「あのヤケアトで日本の繁栄を切望していたわしが… この豊かさをにくむとは…」との思いと、この章の終わり三ページはグッときます。じいさんの回想で、青年のじいさんがたまをだきしめ「わが愛しの妹(たま)よ…」と言うシーンがあります。

 以下ドタバタギャグとところどころにしんみりのシーンがあります。
 そして終わりから三つ目の章(20章)で、じいさん宛のカエルの手紙(おたまがじいさんの妹である)をもり子がカエルから奪って読みます。もちろん信じられないもり子は21章でおたまを攫って、どこかに捨てるように国際シンジケートに依頼します。カエルはじいさんにおたまの出自を話します。おたまが自分の妹であることを知り、おたまを探し出そうとするじいさん。しかしじいさんは、病に倒れます。一方、もり子がイライザなことを知ったカエルはもり子を抱きしめます。
 最後の22章では、大団円なのですが、最初にじいさんの回想があり、カエルの父親の作ったコールドスリープでじいさんは眠りにつきます。
 それからしばらくしてーー具体的な期間はありません、おたまが大人になっているくらいの期間ですーー脳と骨格以外はすべて交換されてじいさんは復活します、青年として。
 おたまに会ってあんちゃんは訊きます。「おめぇ ハラへってねぇか?」「うん あんちゃん!!」と答えるおたま。このシーンにはハンカチが必要です。

 なお、1章と書きましたが、①と白抜きの数字で示されています。
 また、章ごとにタイトルがありますが、映画のタイトルまたはそのパロディーになっています。全部がそうなのかはわかりませんが。

 360ページの大作なのですが、読み始めると止まりません。笑いあり、考えさせられるところあり、涙ありと面白く読めます。カエルの父がマッドサイエンティストの役を演じています。

 このマンガが描かれた頃は、最初に述べたようにバブル景気の真っ只中でした。その頃にこのようなマンガが描かれたことに驚きを感じます。世界一の大金持ちが登場するのはそれが背景にあります。それでも金より当然家族を取るじいさん、そしてもり子なのです。
 おたまが主人公なのですが、もうひとつのお話はもり子のカエルへの想いと、カエルのイライザへの恋でしょう。最後のページで子供を抱いているカエルともり子がいます。

 このマンガの前に「火垂るの墓」のアニメが上映されています。戦後を生き延びられなかった二人に対して、このマンガは戦後の混乱期を生き抜いたじいさんと、そこをスルーしたおたまの奇妙な物語です。

 どうでもいいことですが、21章のもり子が鬘を脱ぎ捨てるシーンで後ろ姿の脚が描かれているのですが、そのストッキングに縫い目があります。

 書名『GIVE ME(くれくれ)たまちゃん!』
 出版社 徳間書店 少年キャプテンコミックススペシャル
 1993年12月20日 初版発行

2018年4月30日月曜日

秋月りすの『OL進化論』


 第一巻が1990年10月ですので、28年も続いているマンガです。現在も連載中なので「こんなマンガがあった」ではないのですが、四齣マンガで時代を反映しているということで、初期のものは過去にこんな事があったと云うことで、懐かしさを感じるのです。

 Wikipedia に「OL進化論」の項目があり、そこにはかなり詳しく過去のことなどもあり、参考になります。1989年の終わりごろから連載が始まっています。

 そこで初期のもので印象に残っているのをいくつか取り上げます。

 まず、第二巻の最初16ページについてです。このころはまだバブル時代が残っていて、商店街のミス・コンテストで香港旅行ということもあったようです。
 ジュンちゃんに誘われて、ミス・ハーバーライトに出て優勝して香港旅行のペアチケットを手に入れる美奈子です。みんなを誘って遊びに行こうというジュンちゃんに、鵜飼いの鵜を思い浮かべる美奈子。
 同じ課の絵美とけいこも一緒に行くことになり、残される課長一人。田中君も休みを取ったのでしょうか。課長はブルーマウンテンを買って一人飲んでいます。
 OL四人の香港でのお話は、行きの飛行機での話を含めて七ページほどです。その半分ほどは食堂と食べ物のお話なのはまぁわかります。15ページの「圧縮」にはくすりとします。旅行中ずっと便秘のジュンちゃんを見て、あれだけ食べたものがと不思議に思う美奈子。
 二ページほどに渡って、社長と社長秘書令子のお話があります。社長の「香港だとひとっ飛びだ 国内出張と変わらんね」とのセリフがあります。
 おみやげの中国服を課長に着せて、そこに部長が現れる場面には笑ってしまいます。

 33ページの「効果」を見て、このころはまだ音姫が広く普及していなかったのかとわかります。1988年発売とありますので、広く普及する前だったのでしょう。

 三巻の34ページには派遣社員が出てきます。派遣会社から来たコとなっています。
 五巻87ページの「最近の若者って」には、昔を思い出して納得できます。中学生と高校生の区別が付かなくなって、歳だなぁと思わされる話です。

 六巻の91ページからの16ページは面白く読めます。派遣会社からの派遣社員の話と課長の子ども達のアルバイトの話の二つが並行して進んでいます。子ども達の春休みの頃の話です。派遣社員の話も面白いのですが、アルバイトの話も面白いものです。中学生の娘はお金持ちの年齢不詳の女の人にアルバイトを持ちかけられます。女の人の不在の十日間ほど犬の散歩をすることになります。そのバイト代として十万円を出されます。「こんなにもらえませんお母さんにおこられちゃう」「そろそろ親に秘密を持ってもいいんじゃない?」と言われお金を受け取ります。高校生の兄は九時から五時まで倉庫での荷物運びのアルバイトをします。そして新学期、身長が伸びて大喜びする兄です。

 今回は七巻まで目を通しました。始まった頃はバブルの終わりで、途中でそれがはじけてしまった頃のお話になってと、良くも悪くもあの頃を思い出してしまいます。


 実はこのマンガを読み返して取り上げたのにはわけがあります。それはいわゆる「働き方改革法案」が国会に上程されたからなのです。派遣労働は初めの頃は特定の業種に限られていたのですが、改正に改正を重ねてほとんどすべての業種に適用されるようになりました。そして何時の頃からか、ハケンとカタカナ書きされるようになっていったのです。
 高度プロフェッショナル制度の導入については、賃金と業種が限定されていますが、派遣労働のようにいつの間にかその縛りが無くなっていくのではないかとの不安がよぎるのです。杞憂ならばいいのですが。


 書名『OL進化論』
 出版社 講談社 ワイドKCモーニング
 1991年 6 月22日第1刷発行 2巻
 1991年12月16日第1刷発行 3巻
 1993年 1 月23日第1刷発行 5巻
 1993年 9 月23日第1刷発行 6巻

2018年3月11日日曜日

地震から七年


 今年も3.11になります。あの日から七年です。海岸には慰霊碑などがありますが、仙台の街の中は地震のあったことを思わせるものは捜さなければありません。
 今日の仙台は春の日差しが降り注ぎ、あの日と違って春なのだなあという一日です。

 先日の発表では、福島原発の凍土壁は一定の効果はあるものの、予想よりその効果はかなり小さいようです。廃炉作業の準備も予定通りには進んでないようですし。四十年から五十年はかかるという作業は、果たして終わりがくるのでしょうか。
 また、双葉町や大熊町はどうなるのでしょうか。自治体としてやっていけるのでしょうか。浪江町と富岡町は人口の三パーセント前後しか戻ってきていないとのことです。

 一週間前のTVで河川津波のことをやっていました。確かに海の見えない十キロ以上も河口から離れたところに津波が押し寄せるとは誰も思っていなかったことでしょう。これが予想されている東南海地震への教訓になれば、命を落とされた方々も浮かばれるのでしょうか。

 避難している人は七万人以上いて、福島県だけで六割以上とか。まだ仮設住宅に住んでいる方も多いとのことです。災害公営住宅の建設もまだのところがあるようです。被災面積に大きな違いがあり、阪神淡路の時と比べてはいけないのでしょうが、遅すぎるのではないでしょうか。阪神淡路では、津波の被害がなかったためにすぐに復旧できたとのことです。津波のことを考えると、色々と大変なことはわかりますが。
 七年ということは、被災者は七つ年をとるということなのです、あと三年で十、年をとるのかと考えると……。

 被災地での、小さくて地震を覚えていないはずの、または震災後に生まれた子供の行動に異常が見られるとの話には考えさせられます。被災した人たちの震災後の不安やいらだちの影響とのことですが、この子達の将来は、と思うと……。
 ハード面での復旧・復興は時間と金さえあれば何とかなるのでしょうが、心の問題はそうではないので、時間がかかるのでしょう。

 あれこれととりとめなく書いてきましたが、七年が、まだなのかもうなのかわかりません。


 震災の二年後に出版されたマンガ、『3.11 あの日を忘れない』1~5巻をずっと積ん読の状態でした。あの日から七年が過ぎた今、ようやく読んでみようと考えています。

2018年2月12日月曜日

東屋めめの『すいーとるーむ?』


 東屋めめを知ったのは『リコーダーとランドセル』の第三巻が本屋に平積みになっているのを見た時でした。面白いのかなぁと、まず第一巻を買ってみました。翌日には三巻までを買っていました。
 他にはないのかなぁと捜して目に付いたのが表題の『すいーとるーむ?』とデビュー作の『ご契約ください!』です。とりあえず『すいーとるーむ?』の第一巻を買い、ちょっとしてから五巻までを買いました。この時にはまだ最終の六巻は出ていません。もちろん、『ご契約ください!』も買いましたけど。

 一回、(原則)八ページで四齣マンガが15本載っています。四齣マンガですのでストーリーはありません。一回15本でのつながりはありますが。
 OL のゆかりさんが主役で、部長、主任、中途採用の後輩の男子(永井君)、部署の違う女子(美好さん)、そして以前勤めていて独立した女性(塩田さん)が登場人物です。一巻から四巻46ページまではセールス三人娘が登場します。四巻31ページから秋律子というアルバイトの女の子が出てきます。

 タイトルの「すいーとるーむ」が何を意味しているかは最初の四齣でわかります。新人の永井君が「おはようございます」とドアを開けるとパジャマ姿のゆかりさんが。終電を逃したのかと訊いてみると、「ここに住んでるの」との返事。生活用品一式が置いてあります。最初は通勤していたのが「毎日帰るの時間のムダ」と会社に棲みついてしまったのです。そして一巻50ページでは、会社の住所に住民登録をしていることまで出てきます。
 一巻26ページにセールス三人娘が出てきて、以後ときどき登場して、永井君が振り回されます。なにしろ売っているのが、家だったり宝石だったり絵画だったりするのです。そしていつの間にか契約をしている永井君。さすがに家とか宝石は買っていませんが。同巻36ページには塩田さんが登場します。これから先、永井君を巡りゆかりさんとのバトル(?)がしばしばあります。と云ってももちろん、男女関係ではありません。
 四巻31ページから登場する秋さんなのですが、なかなかに面白いキャラクターです。永井君には目もくれず、ひたすらゆかりさんに纏わり付くのです。しかも永井君を敵視しています。この三人の三角関係(?)は五巻にも続いていきます。
 ここまではまとめて読みました。2012年の二月のことです。最後の六巻はこの一年後に出ています。
 六巻には永井君が前の会社を辞めることになった先輩社員の吉川さんが出てきます。永井君が吉川さんに「好きです!」、「ごめんね無理」と振られ、「わかりましたここ辞めます!」が一齣で描かれています。前の会社では「退職理由に失恋」と書いて伝説となり、賭の対象にまでなっているのです。
 この巻の81ページには関心を少し永井君に向ける秋さんが描かれています。89ページには悩みをゆかりさんに相談する秋さん、93ページには転職した秋さんが描かれています。そして94ページには塩田さんと一緒に現れる秋さん。正社員としての転職先が塩田さんの会社で、天敵が二人になってうろたえる永井君。
 六巻の帯には「ゆかりさんいっちゃうの!?」「永井君の恋の行方は!?」とあります。最後の二話のお話はここではしません。
 この巻は35ページ以降は、六ページ11話が原則になっています。

 このマンガの面白さはその設定にあります。これまでにも四齣マンガで OL を扱ったものはたくさんありますが、通勤が面倒で会社に棲みつくというのはありません。究極の職住近接の勤務形態と云っていいでしょう。なにしろ通勤時間がゼロなのですから。もっとも遅刻しないかといえば、時計代わりの永井君が出張した時とかその他がありますが。
 仕事以外では、会社から五分の距離しか動かないというゆかりさんが主役で六巻も描くというのはたいしたものです。

 作者の描く OL マンガは設定がどこかとんでいます。このマンガにしても、『ご契約ください!』にしても、決してあり得ないはずなのに面白いのです。それは『秘書の仕事じゃありません』の秘書にも言えることですが。
 カヴァーのゆかりさんの顔が、巻を追うごとに険が無くなってかわいらしくなっていくのも面白いなぁと思います。

 三巻45ページだけが美好さんが三好さんになっています。


 書名『すいーとるーむ?』
 出版社 芳文社 MANGA TIME COMICS
 2008年1月23日第1刷発行 1巻 手元のものは 2010年5月15日第4刷
 2008年12月21日第1刷発行 2巻
 2009年12月22日第1刷発行 3巻
 2010年10月22日第1刷発行 4巻
 2011年10月22日第1刷発行 5巻
 2013年3月22日第1刷発行 6巻