2013年2月12日火曜日

中村昭子の『峰子さんのメランコリー』


 この人のマンガは一冊しか出ていないようです。それが表題作です。
 『峰子さんのメランコリー』には六つの短編が載っています。1976年から1981年のものです。後書きが四ページあり、そのうちの一ページは、ますむらひろしが描いています。ますむらひろしのホームページ(http://www.tiara.cc/~goronao/kudoi.htm)には1977年秋に結婚とありますので、この前後の作品と云うことになります。

 まずは『ぼくの眠り姫』です。
 朝の電車の中で主人公(懸)に寄りかかって眠っている女の子(まち子、マーチと呼ばれています)、同じ高校の制服を着ています。電車に乗るとすぐに眠くなってしまうという習性だそうです。
 その娘が番長(今のマンガにもこんなキャラクターが登場するのでしょうか)から交際を迫られて、主人公とつきあっていることにして断ります。番長とその取り巻きとの間でいろんな事が起こりますが、それを撃退するときにマーチは「大好きよ」と叫びます。帰りの電車で懸は、「ぼくもマーチのこと好きなんだ」と言いますが、すでにマーチは懸に寄りかかって眠っています。懸の言葉はマーチに届いたのでしょうか。
 マーチは「懸くん」と呼んでいますが、学年が上の男の子をこう呼ぶものなのでしょうか。
 あとがき(思ひ出)でこのマンガについては「何も思い出せん」と書いています。

 次は『センチメンタルのっぽ』について。
 ヒロインの三木村乃里は170 cmの背があり外見が女の子っぽくないのが悩みです。けれど、それは奥に秘めているようで、男の子のように振る舞っています。そんな彼女が思いを寄せている男の子の小城と、文化祭で「変身フォーク・ダンス」を踊ることになります。その名の通り、女が男装し、男が女装してフォーク・ダンスを踊るのです。
 文化祭では、クラスごとに作った菊の品評会があり、三木村のクラスの菊が見事に最優秀賞になります。菊の面倒を小城が見ていることを知っている三木村はそのことを小城に伝えます。三木村は小城に好きだと言おうとしますが、「変身フォーク・ダンス」開始の放送があり言えずじまいになります。
 フォーク・ダンスの後で別の男の子から告白されますが、小城が好きな三木村は、断ります。
 その後、小城の告白を受けます。

 最後になりましたが、『峰子さんのメランコリー』です。
 主人公森宮志郎は、女の子から爆笑されるような理想の女性像を持っています。
 そんなある日、理想に近いセーラー服の女の子野坂峰子が転校してきます。峰子に一目惚れの志郎と、志郎に気のありそうな峰子、そんな峰子は、同級生の桜井とみもあなたが好きなんだと言います。
 峰子は志郎に、学校の裏手の雑木林を掘ることを依頼します。何日かで志郎の掘り当てたのは人骨でした。峰子は言います、「この白骨 わたしなんです」と。50年前に、事故で凍死したわたし、パリで死んだという恋仲の彼の死を確かめるために、パリに行くと言って家を出たので、こんなところで死んでいるとは誰も考えなかった、と。死んだわたしが握りしめている、彼からもらった形見のくしを、パリの彼の墓に埋めてくれと頼むのです。志郎の前に現れたのは、志郎が彼の遠縁にあたるからと話します。
 気を失った志郎ですが、温かい手にはっとすると、それは桜井の手です。桜井に峰子のことを尋ねると、誰? と言われます。峰子は志郎にしか見えなかったのです。
 峰子のおもかげを追うたび、桜井の温かい手に行き着く志郎。
 パリに行くための旅費稼ぎにアルバイトに精を出すところで終わります。
 きっとパリには桜井と二人で行くのだろうと思わされます。

 以下、蛇足です。
 この学校には、制服がないようです。みんな思い思いの服装です。
 最初のページで主人公の名前が間違っています。
 14ページに太宰の格好をした主人公が登場するのですが、そのセリフの日本語が変です。


 六つの話とも、高校生をテーマにしたものです。『峰子さんのメランコリー』は、話としては面白いのですが、桜井さんがもうひとつピンときません。32ページにまとめるのは難しいのかもしれません。マンガとしては、『センチメンタルのっぽ』のほうが、まとまっているように思えます。


 書名『峰子さんのメランコリー』
 出版社 朝日ソノラマ サンコミックス・ストロベリー・シリーズ 717
 昭和57年12月15日 初版発行