2018年12月5日水曜日

坂田靖子の『パパゲーノ』


 坂田靖子については、以前『リカの想い出 永遠の少女たちへ』で、触れています。
 この人はいろいろなジャンルの作品を描いています。その中から何を持ってくるのか悩みましたが、今回は表題作を含む短篇集を選んでみました。

 この本には表題作『パパゲーノ』の他に五作品が入っています。一つずつ観ていきたく思います。

 まずは『パパゲーノ』と『めりー・ひーる』についてです。
 パパゲーノと云えば思い浮かぶのはモーツァルトの「魔笛」に登場する人物です。
 でもこのマンガに出てくるパパゲーノは草と木でできた小さな家に住んでます。ページをめくると、パパゲーノの大きさがわかります。ライオン狩りに出かけるのですが、ダンディライオンなのです。勝ったり負けたりしているようです。タンポポの草丈の 1/3 もないでしょうか。それでも家の屋根で栽培しているキノコを食べ、ダンディライオンに勝った時にはタンポポコーヒーを飲みと静かに暮らしていたのです。
 ところがある日フィガロの歌を歌いながら現れた少年に静かな生活は破られてしまいます。パパゲーノの家の屋根のキノコは盗られるは、魚を釣り上げると横からかっさらうは、とパパゲーノの日々は落ち着かなくなります。そんな雨の日、フィガロの歌を歌いながら川辺を走っている少年は足を滑らせ川に落ちてしまいます。慌てて家を出て少年を助けようとするパパゲーノですが、少年は見つかりません。
 もとの静かな生活が戻ってきます。遠くから来たカメが山を越えた向こうでフィガロの歌を聞いたと教えてくれます。
 最後の齣がカーテンコールと題されて、コーヒーを飲んでいるパパゲーノとカメの前にフィガロの歌を歌いながら少年が現れます。この齣は何を意味してるのでしょうか。

 三番目に載っているのが『めりー・ひーる』です。繁みの中に棲んでいる妖精のようなものです。羽はありません。かんしゃく持ちでかなり我が儘なようです。めりー・ひーるが茨を抜けて森の中に入ると魔女の家に着きます。魔女は大きな鍋で何かを煮ています。地下で眠る龍(?)を起こす薬だそうで、龍に乗ると星まで行けるとのことです。そんなことに興味のないめりー・ひーるは帰るのですが、一陣の風(?)で気が変わり魔女のところに戻ります。ところが扉は開きません、魔女と龍はいつもめりー・ひーるの居るところで彼女を待っています。
 さて、どちらが先に家に帰ろうとするのでしょうか。

 この二作品はファンタジーなのですが、何も変わったことは起きていません。身体が小さいとか、カメが話すとか、魔女と龍が出てきてるじゃないかとかは置いておいてください。不思議なことが起こらなくてもファンタジーになるのだなぁと、特に『パパゲーノ』を読みながら考えてました。

 四作目は『フロスト・バレー』です。
 冬の、とは云っても冬至祭なのでまだ本格的な冬ではないはずなのですが、夜のお話です。キング・フロストの落とした冬至祭のタネが原因で何でもかんでも凍り付くと云うもので、結局は夢オチになっているのですが、面白いファンタジーです。

 五作目の『壁紙』は、「マザー・グース」のいろいろなお話がもとになってできています。終わりから三ページ目の、少年の「でも……誰かいるよ 誰か……ぼくがいないと困る人が……」はなかなかに考えさせられるセリフです。マザー・グースを知らなくても面白く読めると思います。

 六作目はアンデルセンの「ナイチンゲール」のマンガ化です。

 さて、二作目ですが、『海』、この短篇集の中では一番気に入ったものです。
 としゆき少年の夏休みの話です。小さい頃に見た図鑑のせいで海が嫌いになったとしゆきですが、両親は海水浴が大好きです。
 夏休みの土日に海辺のおじいさんの家に行くことになります。早速海に行こうとする両親を振り切ります。夜、海の音を聴きながら思います、「枕の下が海だ おじいちゃんはこんなとこにすんでてなんともないのかな」と。
 翌日、親子三人の海水浴があり、その後海沿いの道を歩くとしゆきとおじいさんの場面になります。「おじいちゃん海がこわいの?」「こんなでかいものこわいにきまっとるだろう!」
 おじいさんに買ってもらった帽子をかぶり一人海辺の道を歩き、ガードレールに寄りかかり海を眺め波を聴くところで終わっています。

 何の事件も起こらないありふれた日常を描いただけのマンガなのですが、妙に心に残ります。ほとんど二日間のお話なのですが、としゆきの成長を感じることができます。それは直截には描かれていませんが、最後の海を見るシーンでそれを表していると思えます。


 書名『パパゲーノ』 坂田靖子傑作集 
 出版社 MOE出版
 1989年4月 第1刷



 今日からから九年目になります。この一年は五回だけでした。次の一年はどうなることでしょう……



 【追記】2019年7月31日
 先日、「世界史を変えた異常気象」を読んでいましたら、1941年にソ連に侵攻したドイツ軍は11月に寒波に襲われ、12月上旬には身動きがとれなかったとありました。積雪の記載はありませんが、モスクワで零下25.9度まで下がり、場所によっては零下50度にもなったとあります。知らなかったとはいえ、12月上旬でこんな事になった年もあったなんて。
 『世界史を変えた異常気象』2019年4月30日 第1刷発行 田家康
 日経ビジネス人文庫 日本経済新聞社


 【さらに追記】2019年12月5日
 今年は北日本では12月上旬に40 cm を超える積雪のあったところもあり、うっかりしたことは書けないなぁと思い知らされるこの頃です。