2015年8月31日月曜日

夢路行の『金と銀』


 この作者はいろいろなジャンルのマンガを描いているようです。今は『あの山越えて』でしょうか。表題作はSFと云えるでしょう。

 両親の離婚で押し付け合いになった14歳のリアは、宇宙船に忍び込み密航を企てます。船が星をはなれたところで見つかり、船長のおじさんの前に連れてこられます。
 リアはおじさんに「もう決めたの 自分で自分の居場所を探すって」といいます。

 無事に許可証もとれて、リアは客として宇宙船にいることになります。宇宙船の中で不思議な猫に出会います。片方ずつの目の色が、金色と銀色のオッドアイなのです。そして夢の中でオッドアイの少年に会います。

 14ページにはおじさんと猫の会話があります。
 19ページの最後の齣には笑います。ボードには「アシスタント求む 夢路行 マイ・コミックス 謡う海」とあります。これは、仕事を探すリアが読んでいるものです。目的地まで一ヶ月あるので仕事をしようとしているのです。
 少年の夢をみた後でリアは猫に言います。「かなうはずのない夢を見たりしたら あとで泣くことになるのに」

 とある星で買い物のために降りることにします。そこでおじさんとはぐれたリアは、エアカーの不良達に追いかけられます。そこに猫が現れ、リアを助けます。
 イーディスという少年(目の色以外はオッドアイの少年にそっくりです)に本体に会わせてあげるからと連れて行かれた部屋で、初めて本体に会います。「両親のことで神経質になってる君にはすまないことを」と謝り、「何も無い惑星でね」と自分の星のことを話します。「そばにいてあげるよ」との少年に、「本当にそばにいてくれる? ずっと?」と言うリア。この会話でこの場は終わります。

 そしてまた宇宙船での場面になりますが、猫は二匹に増えています。イーディスも乗り込んだのです。
 明日は船を下りるという日に、リアと猫は話します。惑星の昔話の空から星に乗って落ちて来た「黒い髪のイエラ」のこと、「(前略)緑の夢を抱いていられた(後略)」イエラのことを。「夢で世界が変わる?」とのリアの疑問に「これが僕等の方法 欲しいのは新しいイエラ」と応えます。「君は何をくれる?(後略)」と問われてリアは答えます。「(前略)自分の夢を自分で守れる人間になるの そしてもしあなたが自分の惑星に戻った時 荒野に一人立つのがつらかったら わたしが一緒にいてあげる ずっと」

 一言で言えば、思春期の少女の成長物語です。リアはたった一ヶ月でずいぶん成長したようです。
 最初に登場する猫には名前が出てきていないようです。

 38ページから39ページにかけて、「早くて確実な通信手段」として、思念が出てきます。思念あるいは思いまたは考えが一番早いというのは、ギリシャ神話にも出てきます。それを踏まえて登場させたのでしょうか。何光年離れていようとも、思念は一瞬にして届くでしょう、思い描くだけですから。

 初めにSFと書きましたが、要素としては宇宙船が出てくること、ほかの惑星が出てくることだけです。これまでにもいくつかSFを取り上げてきましたが、その中でも抒情的なSFと云って間違いないと思われます。なにしろ、思念だけの猫に触れるのですから。と書いて、奥友志津子の『冬の惑星』では虚像…精神のみで人を殺すシーンのあったことを思い出しました。

 シリアスなマンガなのですが、最後の最後で力が抜けました。
 おじさんは父の兄弟か、母の兄弟か一切書かれていません。


 『金と銀』の次に載っているのが『金銀砂岸』です。『金と銀』よりはSF色が強い作品です。星が人を引き寄せるわけではないのですが、読み終えて、ギリシャ神話のサイレン(シレーヌ)を思い出しました。


 書名『金と銀』
 出版社 東京三世社 LE COMICS
 1992年9月30日 初版発行

2015年8月21日金曜日

今日マチ子の『cocoon』


 今回は短くなります。読んでいていろんな想いが渦巻いてしまいました。

 目次の次のページに、「この物語は、実在するテーマを題材としたフィクションです」とあります。
 沖縄の女学生の学徒隊の物語です。主人公はサンという名前で、タイトルのとおりに繭の中でいつか羽化する日を……と願うのですが……。
 15ページの蚕の話が最後の話につながります。

 ここではお話のあらすじはほとんど書きません。あまりにも悲惨な内容なので。
 でも、現実はもっと悲惨だったろうと云うことは想像できます。

 66ページの「目が見えなくなったひなちゃんは幸せだ この現実を見ないですむのだから」には、どきっとさせられました。ひなちゃんは次の章で亡くなります。

 看護隊の解散命令を受けて、サンたちはガマから追い出されます。そこからは、もっと悲惨な目に遭うことになります。手榴弾で自決する級友たちと、それができずに逃げ出すサンとマユ。マユは銃撃を受け亡くなってしまいます。
 最終章では、「繭が壊れてわたしは羽化した」「羽があっても飛ぶことはできない」「だからーー生きていくことにした」のサンの思いで終わっています。

 目次と帯は旧字体で書かれています。


 ソ連軍が満州に攻め込んだときも同様ですが、軍は国民を護るために存在するのではありません。軍が護るのは国なのです。


 書名『cocoon』
 出版社 秋田書店
 平成22年8月20日 初版発行  手元のは平成25年8月25日 五版です。

 帯に戦後65年とあります。今年は戦後70年と云うことで、いろんな事がありました。