2014年9月7日日曜日

小田空の『空くんの手紙』


 2000年代は中国紀行マンガを描いている作者ですが、1980年代は紛れもなく少女マンガ家でした。
 「非公式ファンサイト 小田空 いかがですか」http://www.geocities.jp/kongzimi/ にいろいろと書いてあります。また、「空くんの手紙」については「視聴読のくじら時間」http://sagicojikan.cocolog-nifty.com/blog/2007/10/post_08cf.html に載っています。さらには http://yaplog.jp/ladygoround/archive/244 にもにもあります。wikipedia には「空くんの手紙」の項目があります。そこにはレギュラーとして空くん、うさぎそしてゴジラの三人が、準レギュラーとしてうそつき虫、チップチップそれに料理長が書かれています。不思議なことにまれにゃんことまれすけは入っていませんが。

 メルヒェンマンガなのだろうとは思うのですが、なかなか深いことも描いてあります。登場人物のおとな(空くんから見ての大人です、)は二種類に分かれています。料理長はどう見てもこの世界の人です。なにしろまぼろしの味を味わうために小さくなっているのですから。3巻の「雨の日の訪問者」の先生はうさぎの策略に引っかかってしまいます。実質的な最終回に登場する新聞のお兄さんだけがもうひとつのおとなです。

 ゴジラ(もちろん、あのゴジラではありません、うさぎがそう呼んだから付いた名前です)の登場する七番目からはお話がかなり変わってきます。掲載誌の「りぼん」にはこちらのほうが合っているのかもしれません。

 それではマンガを少し見てみましょう。

 最初の二話は八ページのマンガで、この頃は長期連載になるとは考えてなかったようです。最初は丘に立つ扉を開けてやって来た男の子のお話、次がうさぎの親切で、これからの物語の基本になっているようです。

 その次が「あめあがり風景の巻」です。空くんとうさぎは森の中で男の子に会います。その頃から雨が降り始めます。三人で家に帰り雨が上がるまでまで遊ぶことにしますが、数日経っても雨はやみません。男の子が触れた花が枯れたことから、男の子は悪魔なことがわかります。男の子を突き放す空くん、男の子は裏の森の方へと走り去りますが、古井戸に落ちてしまい、なんとか枯れた蔓につかまっています。
 空くんは手を伸ばして助け上げようとしますが……以下がその時の二人のやりとりです。「ぼくなんかにさわったら君に不幸が……」「でもぼくが手を離したら君が死んじゃう その方がもっと不幸だ 君にふれるから不幸になるんじゃない 君をつきはなすから不幸になるんだ」
 この後で雨が上がり、初めて太陽を目にする悪魔、そして長い空くんの独白で物語は終わります。その中の「1回彼をつきはなした分だけぼくの方が本当の悪魔じゃないかって気がするんです………」には考えさせられます。

 「コスモス咲かないでの巻」では、季節の移り変わりをセミの鳴き声を使って寂しく描いています。

 「評論家ワトソン先生についての考察の巻」では真実についていろいろと描かれています。空くんの次の言葉は大事なことです。「かたよった情報はそれじたいがほんとうのことだったとしても真実とはいえない 冷静にききわけないと情報の奴隷になっちゃうよ」
 一面からしか見ないとたとえそれが本当だとしても、別の本当のことを見落としてしまうことへの警鐘でしょう。でも、複数の視点から物事を見るのはなんと難しいことでしょう。似たような場面はシェークスピアの戯曲にもあるとか。

 「新聞の日の巻」は、おとなになることについての空くんの葛藤が描かれています。
 ある日、新聞を持ったお兄さんがやってきます。彼の目にはうさぎやゴジラは映っていません。空くんを相手に新聞を押しつけます。
 「イツマデモ夢ノ世界デ遊ンデラレヤシマセンカラ…」と言われたのを思いつつ新聞から目を上げると、部屋の中には誰もいません。外に遊びに出たのかと、捜しに出ると、今日の新聞を持った新聞のお兄さんに会います。「きみはひとりですんでいるんだろ?」と彼に言われます。
 次のページには黒い背景の黒い丘に座り込む空くんがいます。
「うたがうことがおとなじゃない 夢を夢だとわりきることがおとなじゃない」「これじゃぼくはひとりぽっちだ」
 願いをこめて新聞紙で飛行機を折り、飛ばしてみると……現れた皆を涙で抱きしめる空くん。「どうせいつかはおとなになるんなら(中略)踏まれるタンポポの痛みがわかるようなそんなおとなになりたいです」

 どのように終わるかが気になるマンガなのですが、こんな終わり方もあるのだなあと思ったものでした。
 ナルニア国物語では、長女が、成長とともにナルニアのことを忘れる場面があったように記憶しています。作者はそれを知っていてこのような終わり方にしたのかなあとも思うのですが。


 書名『空くんの手紙』1~4巻
 出版社 集英社 RIBON MASCOT COMICS 194, 232, 277, 321
 1巻 1981年1月19日 第1刷発行 1983年2月15日 第8刷が手元のもの
 2巻 1982年5月19日 第1刷発行 1983年2月15日 第3刷が手元のもの
 3巻 1983年10月19日 第1刷発行
 4巻 1985年1月19日 第1刷発行

 発行年から見ると1~3巻をまとめて買ったようです。

 SHUEISHA GIRLS COMICS として1, 2 巻となって1992年2月10日、3月10日に発行されています。また、集英社漫画文庫として2000年にも出版されているようです。