2023年4月30日日曜日

柿沼こうたの『ゆうれい色の日常』

  今回取り上げるのは比較的新しいマンガです。本屋でタイトルをみて手に取ってみると、傘を差している女の人とゆうれいのかわいい絵、そして帯の惹句で買いました。最初の「踏切1」を読んで買ってよかったと思いました。 

 190ページで26の短編が載っています。長いものでも12ページです。どの作品にも幽霊が出てきますが、どの幽霊ももちろん怖くはありません。登場するのはほとんどが寂しい幽霊です。と云うことで、少し中を見ていきます。

 まずは「踏切」からです。このマンガは1〜4まであり、第1話、第6話、第13話そして最終話(26番目)に載っています。「踏切1」では昔踏切で死んだ女の人の幽霊が出てきます。その踏切の側で雨の日の夕方に傘を差して誰かを待っているような女の人がいます。誰も来ないなんて可哀想と幽霊は思うのですが、ある雨の日、夜になっても雨が止まず幽霊は女の人に声をかけられます。「今日は雨が強いしウチくる?」 かわいそうな人なんかひとりもいなかった でお話は終わります。「踏切2」は猫の幽霊です。この猫は生きていた時に生きていた時の踏切の幽霊の人に助けられていたのです。「踏切3」では次第に幽霊が見えにくくなっていく女の人と幽霊とのすれ違いに涙する二人です。「踏切4」は最後に書きます。

 どれをとっても面白いのですが、その中からいくつか取り上げてみます。第3話「やまびこ」ではやまびこの正体が幽霊なのを知った女の子のお話です。成長して子どもを連れて帰省した女の人が大きくなった町(幽霊と出会った場所まで町は拡がっています)で山に向かって叫びますがやまびこは返ってきません。子どもがおーいと叫ぶと小さく返ってきます。「まだどこかで見守っているんだね」と涙する母親です。 第4話「病院」は黒い影と入院している女の子のお話です。女の子に目が見えないと言われ、黒い影は女の子の前に現れていろんな話をします。明日は女の子の手術と聞いて、黒い影は、目が見えるようになったら自分を怖がる、それならいっそこの手でと考えるのですが、女の子の「治っても私たち友達だよね」にはっとします。「心まで化け物になろうとした‥‥ もうあなたに会う資格はない‥‥」と姿を消してしまいます。退院の前の日、黒い人影は最近現れないと聞いて「お互い嘘ついちゃったね‥‥」と涙する女の子。女の子の嘘はここに書かなくても分かるでしょう。 第10話「地蔵」では60年の時を経て、助けた女の子の孫に恩返しをされる幽霊の話、第17話「橋」では橋を渡って幽霊に会いに来る女の子、その橋も取り壊され、夜に合図を送っていた女の子も10年、20年と経て合図も消え100年後には集落も無くなってしまいます。「ひとりになったか」と思う幽霊ですがそこに老婆の幽霊が現れて言います。「もう手ふらなくてすむね」と。

 「踏切4」ではそろそろいこうと決心した幽霊が愛し愛された人たちに別れを告げ、待っていた猫の幽霊を胸に抱え消えるのですが、消える寸前でこちらを振り向いて言うのです。「いってきます」

 悪意を持った幽霊はいません。第4話の黒い人影だけが悪意をなそうとするのですが、女の子の一言で改心します。幽霊がこんなにも優しく、寂しい心を持つのなら幽霊と友達になるのも悪くないのかも知れないなどと思わされます。「踏切4」の「いってきます」には「いってらっしゃい」と声をかけたくなります。この会話には帰ってくることが前提としてあるはずなのですが。でも、終わりが「さよなら」では何の余韻も残らないしなぁと。

 幽霊の話なのに登場する幽霊はどれも可愛くて、こんな日常なら悪くないなぁなどと思うのです。絵としてはカワイイ系の絵ですが個性的な絵で内容に合っていると思いました。

 このマンガはネットで配信したものを単行本にしたものです。


書名『ゆうれい色の日常』

発売元 株式会社小学館クリエイティブ

発行所 株式会社ヒーローズ

出版年 2022年12月31日第1刷発行