2020年5月14日木曜日

石森章太郎の『きりと ばらと ほしと』


 作者は筆名を途中で石森から石ノ森に変えていますがこのマンガの頃は石森でした。

 このマンガは萩尾望都が『ポーの一族』を描くきっかけを与えたことでも知られています。
 「きりとばらとほしと」で検索したところ metalogue.jugem.jp/?eid=2515 にありました。この筆者の小野満麿さんのことは知りませんでした。

 「第1部 きり」は1903年7月オーストリアからお話が始まります。ヒロインのリリが女吸血鬼に咬まれて吸血鬼となります。リリを咬んだ吸血鬼は心臓に杭を打ち込まれチリになって消えてしまいます。
 「あなたはもう永遠にあたしたちのなかまよ……」と言われたことを思いだし身震いするリリです。
 全部で11ページです。「きり」は最初の馬車がひっくり返る場面と中間のリリが吸血鬼に襲われる場面、そして最後の場面に霧がかかってます。

 「第2部 ばら」は1962年8月の日本です。これはこのマンガがでた時で、リアルタイムのお話です。吸血鬼が犯人との濡れ衣を着せられそうになった時に、リリが犯人を指さして消えるというお話です。犯人は勿論リリの正体を知っているわけではありません。
 このお話は20ページです。「ばら」はリリが自分の正体を現す時に、手に取ります。

 「第3部 ほし」は2008年9月のアメリカで第2部から46年後の未来です。火星から宇宙船団が帰ってきますが、火星のビールスのために船員は吸血鬼になっています。リリはヘンリーを吸血鬼にしようとするのですが、地球人の最後の一人として、死んでいくヘンリーです。
 これは31ページあります。「ほし」は火星と、最後の齣の背景の星々なのでしょう。

 つい、「ポーの一族」と比較したくなりますがそれは野暮というものでしょう。

 第1部はレ・ファニュの「吸血鬼カーミラ」をほとんどそのまま引き写したものです。しかしだからといってリリを襲う吸血鬼の名前をラミーカとはちょっとどうかと……。吸血鬼の登場と、吸血を引き継ぐものの出現を表すにはこれがいいのでしょうか。
 第2部は、少女マンガらしいと云えば、この三つの中では一番そうなのだと思います。登場するのがお金持ちの男とその子供の姉弟です。姉の婚約者も出てきます。
 第3部はまさに地球人最後の男です。とはいえ、読んでいて気になったことがあります。薬を飲んでいて吸血鬼にならないというセリフと、六ページ後の「なかまになるか さもなくば死を……!」とのセリフの齟齬です。薬の効き目が永続するとは書いてないから、いつか効き目が切れるのかなぁと思ったりもして。

 三話ともに有名な詩から始まっています。一話はヘルマン・ヘッセ、二話はスウインバーンそして三話はダンテです。順番に霧と薔薇と星を歌ったものです。
 三つのお話は、年代は飛び飛びなのですが、七月、八月、九月と月は連続しています。これもこだわりなのでしょう。

 この作品は、60年近くも前に描かれたものです。絵柄としては、今のマンガになじんだ人には古いでしょう。それでも齣割りは工夫されていて、現代のマンガに劣るとは思えません、面白く読めます。


 この作品の前に載っているのが、『昨日はもうこない だが明日もまた……』です。これはロバート・F・ヤングの有名な SF 小説『たんぽぽ娘』が下敷きになっているのでしょう。悲しいお話です。
 奇数ページの上にあるタイトルが「昨日はもうこない だが明日また……」と間違っています。これでは意味を成していません。


 タイトル『きりと ばらと ほしと』
 書名『竜神沼』SCM-6 マンガのタイトルは「龍神沼」になっています。ただし、手描きの龍の字が間違っています。だからタイトルの漢字を変えたのかな?
 出版社 朝日ソノラマ
 出版年 昭和42年2月1日

 この本には紐の栞(スピン)がついています。初期の sun comics だけなのでしょうか。


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