2013年10月20日日曜日

水樹和佳の『月子の不思議』


 この人は短編では『樹魔・伝説』、長編では『イティハーサ』が思い浮かびます。『樹魔・伝説』は発表当時から話題になった作品です。『月子の不思議』はそれから五年後の作品です。
 『樹魔・伝説』の遠景には1972年12月に終了となった「アポロ計画」(Wikipedia によるとその後のこともあったようですが)があるように思えます。ローマクラブが「成長の限界」を発表したのも同じ1972年でした。地球温暖化と沙漠化が話題になったのがいつのことかはわかりません。
 月の次は火星かと云われた熱狂も醒めて、七年後に描かれたのが『樹魔』です。

 さて、『月子の不思議』ですが、舞台は2020年代の初めです。

 あらすじをと思ったのですが、どうにもうまく書けません。そこでネットからの引用になりますが、以下を…。

 まずは http://onlyfavorite.seesaa.net/article/67652037.html から。
 「月子の不思議」は、「月子」という(月で出産することはご法度なのに密かに)月で生まれた少女を主人公として、地球環境に馴染むことのできない彼女がいかに地球と和合するか、というお話(強引)です。水樹和佳は、月の無機質と有機的地球をバランスとアンバランスという概念でとらえ、地球で生きるにはアンバランスを素直に受け入れることだと諭しています。

 次に http://blog.livedoor.jp/heavyduty060603/archives/51778300.html から。
砂漠を緑化する『緑の夢(植樹)計画』を推進する‥2001年生まれの伊藤理比等の日常は砂漠にある。そんな理比等が人並みに故郷.TOKYOに戻った年末。PSI(超常現象)能力者の友人が不良にカラまれていた女の子を助けた。負傷しつつ不良を追い払ったのに、件の女の子は『100mの高さから飛び降りても受け止めてくれる?』─と助け手を拒絶した。
(中略)彼女のネックレスに見つけた名前は『月子』。‥理比等の持つ'父の記憶'の中に刻まれた‥月で産まれた子供の名前。月での受胎は禁止事項だった為、彼女の存在は隠蔽され‥月で生まれた子供は「月子」だだ一人。


 サイ(超常現象・PSI)パワーがほぼ常識になっている世界です。主人公の伊藤理比等はサイ体験がありません。仕事は砂漠の緑化ですが、それなりの苦労はあるようです。

 飛行機事故で砂漠に落ちる月子と理比等、月子は無事ですが、理比等は重傷を負ってしまいます。理比等を助けようと必死の月子ですが、手の施しようがありません。そこに二人を取り囲むように樹の幽霊が現れます。同調する力も失った理比等に、月子は樹の霊を橋渡ししてやります。これが月子が地球のアンバランスを受けいれるシーンになるわけです。それが「地球は月とは違うバランスを捜しているのよ だってこんな砂漠でさえ夢見てる」との月子の言葉になるわけなのです。
 そして最後のページの理比等の思いにつながるのです。
 「せめて二人できれいなバランスを夢見よう」

 以前に取り上げた筒井百々子の『たんぽぽクレーター』は、冬になった地球を救えるものがいるとすれば……で終わっています。この話では、たんぽぽクレーターの子供達全員がダグの夢を見ること以外は不思議なことはありません。それでもそのことが話全体の鍵になっているわけです。
 一方、『月子の不思議』では、PSI が不思議ではなく、体験のない理比等が最後に不思議を体験することが鍵になっています。この話の進め方には疑問を感じます。どのように話を進めるかはわかりませんが、普通の暮らしの中で、最後に月子を通して不思議が起こった方がよかったのではないかと思うのです。

 J.O.D.E.E. と云うホームページに以下のように書かれています。
(http://www.interq.or.jp/neptune/namiheij/Books/comic00/c0025.html)
 この作品、ちょっと不思議な感じがするのだが、それは男女の役割が交替(フィクションの中の人物造形として、ね)しているからか?
 何となくのイメージだが、自分の中のバランスにしがみついて周囲との交流を拒絶する月子の行動原理は、わりと男性的なもののような気が……。対する理比等(りひと)は樹の精神と結びつき、調和を導く存在として描かれている。これが何となく「母型的」に感じられてしまった。
 「リヒト」はドイツ語で「光」のこと。あ、そうか、「太陽」と「月」の物語だったんだ。
 ーーーここまで引用

 としたならば、ドイツ語では太陽は女性名詞、月は男性名詞と云うことをいれておいてほしかったなあと思うのです。Licht は中性名詞ですが。ドイツ語以外は太陽が男性名詞で、月は女性名詞だったと思います。


 書名『月子の不思議』
 出版社 集英社
 1989年12月16日 第1刷発行

 あとがきの最初に、自分の名前について書いています。