2018年5月31日木曜日

永野のりこの『GIVE ME(くれくれ)たまちゃん!』


 永野のりこといえば、眼鏡の少年(マッドサイエンティスト)とおかっぱの女の子が定番ですが、このマンガはちょっと違います。眼鏡の中学生と三つ編みの女の子が主役です。
 帯には「いつものメガネのマッドサイエンティストが女の子をアレするマンガと思ったら大まちがい ひとあじ違う永野のりこ ハンカチは、5枚じゃ足りない!」とあります。確かにハンカチは5枚では足りないと思います。けれどもちろんお涙ちょうだいではありません。マンガに必要な笑いがちりばめられています。

 このマンガは1989年から描かれたもののようで、日本はバブル経済の真っ最中でした。だからこそ帯に「お大尽だよぅ」とあるのも頷けます。
 あらすじについては「つれづれの館」の「漫画資料室」を見て戴ければ幸いです(www.jakushou.com/ture/manga/mei/tama.html)。
 終戦直後からコールドスリープで平成の世に甦る女の子のお話です。

 それでは、私なりに面白いと思うところを少し書いてみます。

 2章の「マリラのようなツッコミをっ」は赤毛のアンからのものでしょう。同じページと次のページにかけては泣くべきなのか、笑うべきなのか、道の真ん中でがつがつと食事をするおたま。せっかくの名場面が……。
 この章からレギュラーの佐渡金山(さどかねやま)もり子が登場します。
 3章でおたまが還(カエル)と同学年で八ヶ月生まれが早いことがわかります。カエルの好きな子がイライザと名乗った女の子なのが気を失ったカエルの回想に出てきます。
 そして4章で、もり子がイライザであることが読者にはわかります。カエルがそれを知るのは21章なのですが。
 8章でもり子の祖父佐渡金山日出邦(じいさん)が出てきます。日本一、いや世界一の大金持ちですが、おたまには徹底的に優しく振る舞います。敗戦後のどさくさで行方不明になった妹のお給とそっくりなおたまなのですから。9章でおたまとお給が同一人物と気づくカエルですが、そこはマンガ、いろいろと邪魔が入り21章までじいさんには話せません。
 10章の佐渡金山の「あのヤケアトで日本の繁栄を切望していたわしが… この豊かさをにくむとは…」との思いと、この章の終わり三ページはグッときます。じいさんの回想で、青年のじいさんがたまをだきしめ「わが愛しの妹(たま)よ…」と言うシーンがあります。

 以下ドタバタギャグとところどころにしんみりのシーンがあります。
 そして終わりから三つ目の章(20章)で、じいさん宛のカエルの手紙(おたまがじいさんの妹である)をもり子がカエルから奪って読みます。もちろん信じられないもり子は21章でおたまを攫って、どこかに捨てるように国際シンジケートに依頼します。カエルはじいさんにおたまの出自を話します。おたまが自分の妹であることを知り、おたまを探し出そうとするじいさん。しかしじいさんは、病に倒れます。一方、もり子がイライザなことを知ったカエルはもり子を抱きしめます。
 最後の22章では、大団円なのですが、最初にじいさんの回想があり、カエルの父親の作ったコールドスリープでじいさんは眠りにつきます。
 それからしばらくしてーー具体的な期間はありません、おたまが大人になっているくらいの期間ですーー脳と骨格以外はすべて交換されてじいさんは復活します、青年として。
 おたまに会ってあんちゃんは訊きます。「おめぇ ハラへってねぇか?」「うん あんちゃん!!」と答えるおたま。このシーンにはハンカチが必要です。

 なお、1章と書きましたが、①と白抜きの数字で示されています。
 また、章ごとにタイトルがありますが、映画のタイトルまたはそのパロディーになっています。全部がそうなのかはわかりませんが。

 360ページの大作なのですが、読み始めると止まりません。笑いあり、考えさせられるところあり、涙ありと面白く読めます。カエルの父がマッドサイエンティストの役を演じています。

 このマンガが描かれた頃は、最初に述べたようにバブル景気の真っ只中でした。その頃にこのようなマンガが描かれたことに驚きを感じます。世界一の大金持ちが登場するのはそれが背景にあります。それでも金より当然家族を取るじいさん、そしてもり子なのです。
 おたまが主人公なのですが、もうひとつのお話はもり子のカエルへの想いと、カエルのイライザへの恋でしょう。最後のページで子供を抱いているカエルともり子がいます。

 このマンガの前に「火垂るの墓」のアニメが上映されています。戦後を生き延びられなかった二人に対して、このマンガは戦後の混乱期を生き抜いたじいさんと、そこをスルーしたおたまの奇妙な物語です。

 どうでもいいことですが、21章のもり子が鬘を脱ぎ捨てるシーンで後ろ姿の脚が描かれているのですが、そのストッキングに縫い目があります。

 書名『GIVE ME(くれくれ)たまちゃん!』
 出版社 徳間書店 少年キャプテンコミックススペシャル
 1993年12月20日 初版発行