今回は、今年発行された新しいマンガを取り上げます。この人はブログでマンガを描いていますが、初めて読んだのは出版された『今日の早川さん』です。SFの博覧強記には驚かされました。
表題のマンガは、H.P.ラヴクラフトのクトゥルー神話を換骨奪胎した4コママンガと、3〜7ページの短編で作られています。帯には、「もしも、怖ろしいクトゥルーの邪神たちが実はかわいい女の子だったとしたら?」との惹句があります。
ラヴクラフトは文庫本で1, 2冊読んだだけで、それもずいぶん前のことでした。それほどの興味も湧かずにそれでおしまいになってしまいました。著者後書きに、登場する者の発音は指定されていないというようなことが書いてあったような気がします。Cthulhuをどう発音するかですが、その本にはクトゥルフとあったように思います。
ラヴクラフトに興味がなかったにしては、諸星大二郎のマンガはずいぶん読みましたけれど。
短編はシリアスが主ですが、4コママンガは基本的にはギャグマンガと言っていいと思います。
4コマは続き物が多いのですが、クトゥルーのキャラクターが作者なりの解釈で登場します。妙に怖い(?)のが15ページ目の「重ね合わせの猫」でした。シュレディンガーの猫の話ですが、4コマ目で、顔中に冷や汗をかきながら、ナイアルラトホテップとティンダロスは何を見たのでしょうか、気になります。
短編では「庭の片隅で眠るもの」を面白く読みました。珠恵が庭で見つけた、カエルに似た生き物ツァトゥグァの話です。ツァトゥグァは人から見たら長命の生き物です。珠恵は成長するにつれて、ツァトゥグァを忘れます。家を出て行った珠恵ですが、出戻ってきます、ツァトゥグァに初めて出会ったときぐらいの女の子を連れて。
その子がツァトゥグァに気づきます。「おかーさん、変なカエルがいるよ」「そういえばお母さんが小さい頃にも、いつもここにこんなカエルがいたのよ。懐かしいなあ」
最後のコマは「きみきみ、あのときの カエルくんじゃないよね?」と云う珠恵の呼びかけと 「…もうしばらく、ここにいるとするか」と云うツァトゥグァの心のつぶやきです。
最後のコマの珠恵は、少し前のコマとは違って、生き生きとして見えます。娘と同じ歳のようにも見えます。きっとここではよい生活を送れそうに思えてきます。
このマンガは面白く読みましたが、もう一度ラヴクラフトを読もうとは思いませんでした。ラヴクラフトが高い山か深い池かわかりませんが、その周辺をうろうろしているのがわたしには似合っているのでしょう。
書名『異形たちによると世界は…』
出版社 早川書房
2011年7月20日 初版印刷
2011年7月25日 初版発行
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