2011年10月13日木曜日

矢代まさこの『シークレット・ラブ』

 これは41年前のマンガです。1970年に描かれたものです。ですけれども、単行本の出版年から見ると、このマンガを読んだのは早くても1978年だと思います。

 「きいてください わたしの初恋の物語 けれどききおえたあとで あなたの健康なほおを さげすみの笑いでゆがめないでください」と始まる物語、まさに「秘められた恋」の物語です。デラックス・マーガレットに載ったものですが、この当時、このようなマンガを載せたことには敬服します。

 以下にストーリーを簡単に記します。

 登場するのは、わたし敦(敦子)、冬子、そして冬子のいとこの牧夫です。わたしと冬子は高校一年生です。
 わたしは冬子を親友だと思っています。冬子のことは、何だってわかっているのですから。わたしは、プレゼントしたショールに包まれた冬子を絵に描こうとします。
 体の弱いわたしは、病院で手に怪我をした男の人から、外科の診療室の場所を訊ねられます。数日経って、その男の人に街で出会います。内田牧夫と名乗り、カメラマンの卵で、イメージにぴったりだからわたしを撮りたいと言いますが、きっぱり断ります。

 冬子のところで、冬子をモデルに絵を描いているところに、牧夫さんが来ます。牧夫さんは冬子のいとこだったのです。冬子を撮ると言って、わたしも撮っているのに気づいたわたしは、興奮して、貧血を起こして倒れてしまいます。
 「ほかの男の子は らんぼうで 子供っぽくて うすぎたない けどね 牧夫さんは ちがうわ」と冬子に言われます。その時から自分の冬子への友情をうたがいはじめます。
 翌日、病院で牧夫さんに会ったわたしは公園で牧夫さんと話します。話していて気づきます、ほんの少し深い友情だと思っていた冬子への感情は、実は恋なのではなかったのかと。

 冬休み中には冬子に会うことを避けますが、休みが明けて再び冬子を描くために冬子のもとに行きます。しばらく来なかったことを気遣う冬子。
 冬子から牧夫さんの気持ちを訊いてほしいと頼まれて、わたしは自分に云いきかせます。「牧夫さんに やきもち やいたり しないわ 気の弱い 冬子の気持ちを 彼に伝えて あげるわ それが ふつうの 友情なん だわ」と。

 牧夫さんに会って冬子の想いを伝えますが、牧夫さんが好きなのはわたしだと言うのです。冬子を牧夫さんに取られるのでは、との恐れはなくなりましたが…。
 化学室の掃除当番の冬子に、どのように伝えようかと悩むわたしですが、冬子は牧夫さんからの電話で牧夫さんの気持ちを知っていました。わたしは自分の気持ちを冬子に伝えられません。
 二人の間で硫酸の瓶が割れて、わたしは足に硫酸を浴びます。

 それから一週間、冬子は訪ねてきません、ふと窓を見ると手紙が挟んであります。冬子からの手紙です。それを読んで、わたしはすぐに牧夫さんに電話をします、「冬子は…… 死ぬかもしれない!」と。
 海辺で冬子を見つけますが、ふたりの前で冬子は岩から海に身を投げます。慌てて海に飛び込み冬子を助ける牧夫さん。その様子を見つめながらわたしは考えます。
 「冬子に恋したりしなければ(中略)あんな誤解は……こんな事件はおこらなかったんだわ」「冬子のそばから去らなければ…」と。

 最後の齣はショールに包まれ微笑む冬子の絵と、「病的に潔癖な少女の異性をいみきらう 感情がうらがえしにされつくられたエピソード それがわたしの初恋だったのかもしれません 冬子は今もキャンバスの中で愛らしく ほほえんでいますけれど……」との敦子のモノローグで終わります。

 このマンガについて作者は“エス”の世界を描きたかったんだけど…と言っているようですが、なんか違うような気がしました。吉屋信子は読んだことはありませんが、エスで真っ先に思い浮かぶのは、ペギー葉山の学生時代の三番の歌詞です。吉屋信子の世界は、そんなにきれいじゃないよと言われれば、なにも言えませんが。
 このマンガでは、登場する三人の想いが、見事に三角形を描いています。そして、矢印は常に一方方向なのです。冬子と牧夫の想いは敦子にはわかっています。でも、自分の想いは誰にも知られてはいけない、と敦子自身は思っています。そのために敦子は街を離れることになるのですが。
 16歳で初恋は遅いと思いましたが、恋だと気づいたのがその時で、そのずうっと前から恋していたのならと、納得できました。
 今のマンガなら、敦子の葛藤はほとんど描かなくても成り立つのかもしれません、それがいいことなのかどうかはわかりませんけれども。

 このマンガを冬子の眼から見た物語として描けば、どんな話になるのでしょうか、興味のあるところです。


 書名『シークレット・ラブ』
 出版社 朝日ソノラマ サンコミックス SCM-473
 出版年 昭和53年4月20日初版発行

 矢代まさこを扱った blog では
 http://blog.goo.ne.jp/luca401/e/92ef3476d56e5447ced8ab3ade35bcef
を面白く読ませてもらいました。

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