2011年9月7日水曜日

須藤真澄の『電氣ブラン』

 表題は作者の最初の単行本のタイトルで、この名前の作品はありません。九つの短編と MASUMI'S スーパーマーケットと題する一ページのイラストというか、身近なもの(たとえばいろいろな時計)を描いたものが数ページです。
 電氣ブランというのは浅草にある神谷バーのアルコール飲料の名前です。

 9編中6編が1985年の作品です。うち、一編は同人誌に描かれたものです。ただし、初出一覧は、東京三世社版には載っていません、竹書房版にはあります。
 初出一覧でみると『告知』が一番古い作品です。ただし、五年後に(原稿サイズ直しのためリライト)とあります。

 『月守(つきもり)』は、星を作るのが仕事のおじいさんと孫娘のお話です。孫娘は初めは高校生として登場しています。最後のページは、右・左・下と三齣しかありませんが、面白い齣です。

 『黄金虫(おうごんちゅう)』は、錬金術学校に進もうとしている高校生・木乃枝が主人公です。自分の心の中が、金の光沢になって現れるというプレッシャーに耐えながら、受験に励みます。錬金術材料との看板の店に入ると、おばあさんと赤ちゃんがいます。ふたりとも名前は木乃枝でした。おばあさんのアドバイスを受け、合格する木乃枝です。最後のページがこれも素敵でした。

 『スウィング』は、拾ったタコのおもちゃの足が折れるたびにタイム・スリップが起こり、そのときのエネルギーで地震が、それも大きな地震が起こってと云うお話です。タコさんはいったい何なんでしょうか、誰が作ったのでしょうか、と言うことは一切でてきません。

 『帝都は燃えておりまする』は、初代ゴジラのパロディーです。登場するのは帝都を焼き尽くそうとする大火災です。ファイヤー・デストロイヤーを持った博士がヘリコプターから火の中に飛び込み火災を終わらせます。
 このマンガは1985年に発表されたのですが、1989年のジョークに一酸化二水素 (Dihydrogen Monoxide) があります。1997年には、アイダホ州の14歳の中学生が "How Gullible Are We?" と云う調査に用いて、世界中に広まったのですが、このジョークがもう少し早くにできてたら、きっと作者はこれを取り入れていたに違いないと、今は思うのです。

 ばかばかしいのが『大回転焼小路』で、笑わせてもらいました。

 『告知』は1980年、『創造』は1981年の作品ですが、高校 1, 2 年生の時の作品とは思えないほどに完成されています。

 『告知』は、子どものない夫婦の前に、それぞれに現れた中学生ぐらいの女の子「麻憂(まゆ)」のお話です。ある日、別々に行動していた夫婦はそれぞれに麻憂を連れて出会います。ふたりの麻憂は消えてしまいます。そしてしばらくして夫婦に子どもができます。と、書けばそれほど面白くないかもしれませんが、読んでみると、絵とお話がマッチして面白いのです。「麻憂(まゆ)」は、子宮を見立てて、繭に掛けてあるのでしょうか。

 『創造』は、植物で少女タイプの生物を作り、それをクローンにして増やすというお話です。植物少女・草子(カヤコ)は順調に増えていくのですが、ある朝、すべてのカヤコは花にもっどてしまいます。最後の一ページは示唆に富むセリフで終わっています。「僕らが宇宙のちりに 一握りの土くれに 戻ってしまうことなど無いと 言い切れるだろうか」「歩いて来た このはるかな道が どこかでゆがんでいた ものとしたら—」

 『晩餐』は、この短篇集では一番長くて、30ページあります。この短篇集の中では一番読み応えがあります。そんなわけで、これはそのうちに別に取り上げようと考えています。(yonemasu.blogspot.com/2015/02/blog-post.html に書きました)

 作品後記「川のほとりに」は、面白く読ませてもらいました。文才もあるようです。


 書名 『電氣ブラン』
 出版社 東京三世社
 1985年11月10日 初版発行
 まひるの空想掌編集 と副題が付いています。
 カラー口絵が8ページあります。
 また、カヴァーには、銀文字で電氣ブランについて以下の記述があります。
  リキュール類
  アルコール分40%
  容量162ml

 書名 『電気ブラン』
 出版社 竹書房
 1996年4月18日 初版第一刷発行
 東京三世社のものとは違うカラー口絵が1ページあります。
 初出一覧があります。

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