2011年8月19日金曜日

さべあのまの『地球の午后三時』

 この人も「プチフラワー」で知った一人です。創刊号から描いていますが、『フリフリCAT』は、印象に残っていません。その次の『三時の子守唄』からは、面白い絵を描く人だなぁと、思いました。

 絵については、できるだけ書かないようにしようと思っているのですが、この人については一言書きますと、アメリカンコミックを取り入れたような絵です。とは云っても、マンガにアメコミの薫りを入れたような感じです。その絵が受けたのだろうと思います。一度見たら忘れられない絵といえるでしょう。

 表題作は朝日ソノラマで出していたマンガ雑誌「デュオ」に載ったものです。
 主人公の男の子リッキー、リッキーと仲良くしたいマリィ・ルー(たぶん二人とも小学校の高学年でしょうか)、リッキーの両親、リッキーの家庭教師のバド、そして一年前になくなった鍛冶屋のユッカ大将が主な登場人物です。

 リッキーは、バドがママにちょっかいを掛けようとしていて、ママも悪い気ではないようだと思っています。
 そんな夕方に、ママはパパの好物のマッシュ・ポテトを作りますが、それはインスタントです。まずくてイヤになったリッキーは、皿の上に山を作ろうとしてママに叱られますが、新聞を取り上げられたパパも新聞の蔭で同じことをしています。
 その後で、できあがったばかりの模型の船を持ってリッキーの部屋に来たパパは、次の日曜に島の入り江でリッキーの船と一緒に進水式を行おうと言います。
 「なんでも知ってるボク この家庭の平和なんて ボクによって保たれているようなもんさ」とリッキーは思います。

 土曜日にリッキーはマリィ・ルーと庭でピクニックをします。絵はありません。
 天気予報は明日の日曜は雨と云っています。

 まだ暗いうちに雨音でリッキーは目を覚まします。メモ帳を破り雨を受けて、雨を燃やすためにバケツの上でマッチで火をつけると、雨は蒸気となってリッキーを雲の上へと運んでいきます。以下10ページが雲の上でのリッキーとユッカの話になります。
 ユッカは雲の上の天気を作る鍛冶場で働いています。

 ここでの二人の会話がこのマンガの言いたいことで、この会話を通してリッキーの考え方に少しずつ幅ができていくのです。「早くおとなに なりたいと 思うけど いいかげんに なるのは イヤだし」「ずっと このままで いたいと思ったり」と言うリッキーに、ユッカは笑いながら答えます。「完璧な おとなや 永遠の こどもなんて いるもんか!」と。
 ママについては「キミ達 男同士(リッキーとパパ)が 仲良くすれば するほど 女のママは さみしいことも あるのさ」「女はいくつに なっても チヤホヤして もらいたい もんなのさ」と言います。
 雲の上から自分の家を見ると、台所でママが本物のマッシュ・ポテトを作っています。「ママは キミとパパのことを ちゃんと思っているのさ」と、ユッカは言います。リッキーはユッカに「今日だけは 雨に しないでよー!」と、お願いして、午后の三時までは雨を降らせないことにしてもらいます。

 日曜の朝、まだ眠っているリッキーに「早く起きないと おいてっちゃうぞー」とパパが声を掛けます。外はいい天気です。
 朝食の席で、ママに弁当のバスケットを渡され、少し考えてから「ママも いっしょに 行こーよ!」とリッキーは誘います。「でも…」とためらうママに言います。「進水式には シャンペンを 割ってくれる ご婦人って 必要なんだ!」

 進水式を終えて、うれしそうにパパに寄り添うママを見てリッキーは心の中でつぶやきます。「ユッカ ありがとう……」

 男の子の成長物語です。この後で、リッキーはマリィ・ルーに優しくできるのでしょうか、気になるところです。
 季節は違いますが、このマンガを読み終えたときに思い浮かんだのは、イギリスの詩人ブラウニングの "春の朝(あした)" でした。特に、あの最後の一節、「すべて世は事も無し(All's right with the world!)」を思ったのでした。

 この本のカヴァー絵は雲に乗ったリッキーとマリィ・ルーそれに犬のクラ・ビス、それを遠くの雲の上から手を振って見ているユッカです。実際の物語ではリッキーとユッカだけしか雲の上ではでてきませんが。


 書名『地球の午后三時』
 出版社 朝日ソノラマ サンコミックス 713・ストロベリー・シリーズ
 昭和57年11月26日初版発行

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