2011年8月11日木曜日

筒井百々子の『たんぽぽクレーター』

 プチフラワーに連載されたマンガで、のちに小学館から単行本二冊で出ています。
 各パートごとにサブタイトルがあり、単行本の目次には、いつの出来事かが示されています。以下、単行本をもとに書いていきます。

 双子の兄弟ダグとレミイは、12歳の夏に、原子炉を積んだ衛星の落下事故に巻き込まれ、ダグは被曝してしまいます。このままでは秋を越せないと知って、父親は月にある WHO の病院にも電話をするのですが、どうしようもないと言われてしまいます。
 そこに助け船が現れます。たんぽぽクレーターにある病院の院長は、この病院でなら、治療方法が見つかるまで、コールド・スリープで眠らせておけるというのです。
 レミイは院長に言います、「ダグが 月で死んだら 許さない」と。

 PART2 からが月面のたんぽぽクレーターでの話になります。

 たんぽぽクレーターとは、民間の月面総合医療都市で小児医療を行っています。まもなく18歳になるジョイは、18になったら医師国家試験を受けることになっています。受かるだけの実力はとっくにあるのですが、院長の方針で18まで待たされています。奥さんをアメリカに残して月にきているデイバイン医師と、ジョイから見るといろいろとわけのわからないところの多いマックギルベリー院長が副主人公です。

 患者の小さな女の子・ジルを誘拐しようと入り込んだ男・パチョーレクは院長に取り押さえられます。院長の右手は義手でした。パチョーレクは、護送の途中で下記のような騒ぎのどさくさで逃げ出して、月にとどまり、さまざまの場面に味方として登場します。
 ハローウィンの夜に地球との連絡が取れなくなります。傍受した地球の放送から、以前から寒冷化していた地球は、中緯度地方までが氷河に覆われたことがわかります。それを聴いて多くの職員は持ち場を離れ地球へ帰ろうとします。
 その混乱の中で夢遊病のジルは、壊れていたエレベーターの穴に落ちて死んでしまいます。そこにジルの父親が現れます。彼は「地球は 環境破壊と 大気汚染で 寒冷化していた(中略)6月の各国の 宇宙兵器実験は 致命傷でした」と説明します。1巻123ページの「季節は 大切な 地球の娘 冷たくなった少女 帰らない夏」は印象的です。

 暴徒に襲われ、地下に避難するジョイたち、その中でジョイはコールド・スリープ中のダグを見つけます。
 発電所の故障で病院中が停電してしまいます。眠っているダグの装置はどうなってしまうのか? と気遣うジョイで、1巻は終わります。

 ジョイの働きで、何とか間に合わせの発電機で電力は供給できました。そして、ジョイは、二度とダグのところには来ないことにします。
 捨てられた太陽発電車を見つけて、それをばらして新しい発電車を作ろうとするジョイですが…、修理班の人からたんぽぽクレーターが年内に閉鎖されることを知らされます。
 その頃院長はデイバインに「患者の亡命や 引き渡し拒否(中略)職権濫用の ワンマン院長」として「月面での 医療活動禁止 追放」となったことを伝えます。たんぽぽクレーターは、患者の引っ越しのためにクリスマスイブまでは存続されます。
 閉鎖のことを確かめようと、ジョイは院長のもとに急ぎますが、途中で倒れてしまいます。急性白血病でした。スクラップ置き場から、危険レベルの放射性廃棄物が見つかります。

 それでもダグのことを心配するジョイは、クリスマスイブまではたんぽぽクレーターに残ることにします。さまざまのことがあり、院長は月から追放、アメリカに帰るはずだったデイバインは妻が死んだことを知らされ、診療所に規模を縮小してのたんぽぽクレーターに残り、ダグを守ることにします。
 クリスマスイブに、デイバインは車いすでジョイを外に連れ出し、ジョイが作っていた発電車を見せます。それを見て喜ぶジョイ。ベッドに戻ってジョイに小さな紙袋を渡します。袋の中には小さなスイッチが入っています。そのスイッチを入れると、窓の外に発電車からの電気を取り入れて、大きなツリーに灯りが点ります。

 以上が PART9 までです。PART10から12は、それから3年半後の話になります。

 たんぽぽクレーターからの子どもたちは同じ夢を見ます。男の子と夏の夢です。その謎を解こうとするうちに、クリスマスイブにジョイが亡くなったことを知ります。謎の答えを捜すとしたらまずあそこだと、たんぽぽクレーターに向かう子どもたち。
 一方、放射線障害の特効薬「黒」を完成させた院長は、ラグランジェポイントのコロニーにレミイを訪ね、そのことを伝え、月にくるように言います。
 月に密入国した院長ですが、宇宙空港で原子力船の墜落に巻き込まれます。気がつくと心配そうに見ているレミイがいます。院長はダグの分の「黒」をレミイに託して、けが人の手当に駆けつけます。

 子どもたちは夢に登場した男の子がダグだったことを知ります。
 何とかたんぽぽクレーターにたどり着いたレミイは、「黒」を投与された小さなダグの手を取って眠ります。
 ダグが目覚めたら地球に帰るはずだったデイバインは、診療所を続けることになります。
 デイバインは院長に「信じますか? あの子たちが ダグの夢を見たこと」と言うと院長は答えます。「子どもは どんな夢だって 見るものだよ(中略)地球に 夏を呼ぶものがいるなら あのたんぽぽクレーターの 子どもたちかもしれない」と。

 作者はいろんなSFや小説からこのストーリーのヒントを得ているようです。
 1巻18ページと2巻238ページには「星の王子様」の挿絵も登場しています。それがまた実にいいところにです。


 書名『たんぽぽクレーター』1巻 (PART1 から PART5 まで)
 発行所 小学館 PFC-491
 昭和59年10月20日 初版第1刷発行

 書名『たんぽぽクレーター』2巻 (PART6 から PART12 まで)
 発行所 小学館 PFC-492
 昭和60年3月20日 初版第1刷発行


 東日本大震災から5ヶ月です。死者・行方不明者が2万500人と最初の頃より少なくはなっていますが。
 余震でしょうか、いま22時32分ですが、揺れています。

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