五つのお話からなる短篇集です。一つずつ観ていきます。
銀波流夜(ぎんぱるや) 25ページ
真史は、叔母のところに下宿することになり鳩のキタローとプール付きの家に来ます。まわりにほとんど家がなくて、田舎のようです。
そこにはすでに下宿人が一人います。真史より年嵩らしい磨伊苦(まいく)という不思議な男です。最初の夜、窓から飛び出したキタローは、翌朝、庭で猫にでも襲われたような死体になっています。
磨伊苦には色々と変なことがあります。肉、それも肝臓が好きとか、水を異常にいやがるとか。そんなある日、鳥を絞め殺しているところを目撃され、真史に川岸に追い詰められ、川に落ちてしまいます。川の中で磨伊苦は本来の姿に戻り川へと帰っていきます。
磨伊苦はウンディーネの男性版なのでしょうか。真史が叔母のところに来た時にはすでにいて、何がきっかけで現れたのかは一切描いてありません。叔母の「いつかは川に帰ったでしょう……」は、知っていて言った言葉とは思えません。「川にとびこんでくれたから」真史の下宿することを認めるにもつながりませんので。
獣たちの影 32ページ
主人公の波流馬(ハルマ)は、妹の夏目を捜しに復活島に渡ります。この島の人間は食糧の異常で変異して全滅したと云われています。島に渡った波流馬の目にするものは奇妙な生き物です。分析機で調べると、一頭の獣の体内に二種のDNAがあったりします。
波流馬の前に毛のない小さな牝ザルが現れ、一人と一匹(チビザル)は仲良く暮らします。そんなある日、波流馬はチビザルの胸に下がっているペンダントが夏目のものだったことを知ります。その時の形相に驚いてチビザルは逃げ出してしまいます。チビザルを捜して島中を巡りますが、見つかりません。捜しながらの波流馬の心の変化が、このマンガの見所なのでしょう。
いつもの寝場所に帰ってくるとそこにチビザルはいました。チビザルを抱きしめる波流馬、「いっしょに行こう もう離れないよ」
終わりの齣でボートが描かれているので、島を離れたのでしょう。
68ページの欄外に「耳飾りをしているけど男性。未来では男だって堂々と」とあります。そんなに遠くない未来を見越しているようで、妙に納得です。
チビザルの表情も丁寧に描かれていて、素直に読めるマンガでした。
星の群れ草の群れ 30ページ
写真家の千葉は神秘的な青い池を見つけ、写真に撮ろうとしますが、シャッターを切る前に池が消えてしまいます。その頃近くの館では星行という少年が目を覚まします。少年は外に出て、千葉と出会います。千葉は少年の夢の中に取り込まれる(?)ことになるのですが、夢の中で撮った写真の背景は少年の夢の中のものだったというお話です。
少年の夢の中では、少年は異形のものたちに自分の腕や脚などを食べさせるのです。ジャータカの話に通じるものがあるような気がします。違いはジャータカは他者への施しなのに、この話では自我・自意識に対して自分を与えている、なのですが。
銀想世界で 16ページ
わたしにはさっぱりわからないマンガです。銀想世界での、落ちている右手と、それが生きていて、主人公が手の持ち主を捜すというお話なのですが…。もっとエピソードを削らなければ、これを16ページに纏めるのは無理のように思えます。
夢庭園 16ページ
アビの国では人は尖った耳を持ち耳の先にそれぞれに花を咲かせます。花が咲くのはそれなりの条件を満たした時のようです。
隣のリン国で育ち、アビ国に帰されたアビ人のビバーハの目を通してみた、リュート弾きシージュの蕾が花になるまでのお話です。
蕾のままで終わるのではないかと悩むシージュに、ビバーハは自分の部屋での「ルートの宇宙」という曲をリクエストします。即興で曲を弾くシージュは、「こんな自由な音楽もあるんだ 心が自由になっていく」と感じたその時に花が咲きます、滅多に咲かない青い花が。
このお話も素直に読めました。まわりの人の花の咲いた時の話も出ているのですが、共通点を捜してみると、何かに拘る心、囚われた心を捨てた時に花が咲くようです。
本に載っている順番とは逆に書いています。
マンガは面白いのですが、読んでいて疲れます。
解説を佐藤史生が書いています。その中で鳥図明児は数学専攻とありました。「夢庭園」には、図形と直線の長さを表す数字が出ています。最近読んだ安田まさえの『数学女子』は、数学科出身の作者が大学時代のあれこれを脚色して描いたもので、それなりに面白いのですが、鳥図明児とは方向が全然違うものです。
書名『夢庭園』
出版社 奇想天外社
1981年12月10日 初版発行
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