2015年5月6日水曜日

水月とーこの『がんばれ! 消えるな!! 色素薄子さん』


 今回は比較的新しいマンガを取り上げます。
 「人々は語る 彼女ほど薄い人はいない と」「それって幸が薄いってこと?」「いいえ」「これはそんな彼女の幸せな幸せな物語です」で始まり、同じ言葉で終わる物語です。
 なお、Wikipedia に「がんばれ!消えるな!!色素薄子さん」の項目があります。

 名前のとおり髪は薄い水色、肌は白い、そして一番の特徴は存在が薄い事です。そこにいるのに誰にも気がつかれない、そんな薄子の大学生活が語られています。
 ギャグの中にシリアスな話が織り込まれています。そして次第にシリアスの割合が多くなっていきます。

 主な登場人物は、兄の濃造、幼なじみの絵尾画子(名前のとおり絵が得意で何度か賞を取っている、何かにつけてピカソを連呼する)、画子の弟(薄子からは弟くんと呼ばれている)画太、小泉雲子(入学式で薄子と知り合い、以後親友になる。プロの脚本家としても活動。この名前を見たときには小泉八雲からとった名前かと思いました。本人のブログを見るとそのとおりでした)、30話から登場する烏丸撫子(一学年下です、29話までで一年経っています)、薄子のアルバイト先の紅茶専門喫茶店の甘咲薫(雲子の従姉妹で、二十代後半)、薫の中学からの友人で保育士の桐谷優子です。そうそう、もうひとつウオサダさんを忘れるところでした。生物学科で飼っている巨大な蛙で、薄子に懐いています。

 このマンガを一言で言ってしまえば、大学四年間での薄子の成長物語です。

 天才的な絵の才能を持つ画子と脚本家としての成功を夢見る雲子、その二人と比べるとなんの才能もないと思う薄子、そんな薄子がどう変わっていくのかと云ったところでしょうか。
 最初の変化の兆しは、第五話の雲子に頼まれての喫茶店のアルバイトでしょうか。けれどこのアルバイトで大きく変わるわけではありません。桐谷優子から「一日でいいから保育園を手伝って」と44話で頼まれます。そして45話で保育園に行くのです。わたわたしながらも何とか手伝いを終えて保育園を後にする薄子ですが、途中で引き返し優子に言います。「また おてつだいにきてもいいでしょうか」
 とは云っても、次に保育園が登場するのは59話です。

 48話では教務の手違いから、希望しなかったゼミに割り振られます。先生の所に変更を申し入れようと部屋をノックする薄子ですが、先生の話を聞いて、その郷土史のゼミに入る事にします。この話の最後の齣は笑い(と涙)を誘うものでした。
 53話ではフィールドワークに出た薄子と先生のお話ですが、このテーマは変わるものと変わらないものでしょう。人の想いは変わらないのでしょう……
 61話で薄子には言わずに画子はパリに絵の勉強に出発します。62話では画子の真意を知り、がんばろうとする薄子が描かれています。

 63話からは四年生になった薄子のお話になります。
 72話で優子から保育士になることを勧められますが、73話で薄子の失敗から保育士の話はなかったことにと優子に言われてしまいます。74話では今日限りで保育園をやめる決心をして保育園に出かける薄子ですが、自分の失敗の意味を知り、優子に詫びて、保育士になる決意をします。
 80話ではパリ美術コンクールで画子は入選し、84話で一時(凱旋?)帰国します。ここから最終の96話までは四人で行動をしています。
 95話では保育園の卒園式があり、薄子も先生として出席しています。

 最終話では、卒業式の二日後にパリに戻った画子と、数週間後に、パリに旅立つためにバスに乗る薄子で終わっています。そこに始まりと同じ言葉が書かれています。

 保育士になる決心をするまでの薄子と、友人の三人のお話なのですが、サイドストーリーもあり、面白いマンガです。
 33話や37話のお話が伏線になっているとは、45話になるまでわかりませんでした。33話で気になることが一つ。一緒に喫茶店甘咲に来ている撫子は途中から全然出てきません、薄子をどういうふうに見ているのかがあればもっと良かったと思うのですが。
 13話には巨大蛙の(薄子の命名の)ウオサダが出てきます。生物学科の蛙でヒトの二、三倍はあろうかという大きさです。でも小さい頃から蛙やトカゲの好きな薄子は大喜びで蛙に抱きつき、蛙も薄子が気に入ったようすです。ウオサダはこの後も何度か登場し、最終話では薄子との別れに涙さえ流しています。
 最終話での画太の想いは薄子に届いているようですが、それに対して薄子はどう答えるのでしょうか。
 57話では雲子と濃造が互いに好きだった事に気づきます。


 このマンガが初の商業誌連載とのことですが、絵はうまいし、お話にも破綻はなくとても素敵です。主人公は存在が大事と思っていたのに、それをひっくり返した着想はすばらしいものです。存在が薄いことが、逆に存在を際立たせるとは。
 見ていて疲れないことの一つとして、お話の終わりのところどころに脱力シーンがあることもあるでしょう。たとえば、74話での最終の齣はそれまでの緊張をほぐす役目もあるように思えるのです。全部の話の終わりが脱力シーンなら、面白くも何ともないのですが、いいタイミングで入っています。
 遠ノ宮のモデルはどの辺なのでしょうか。第2話では、結構な本数のバスが走っていそうな描き方なのに、時刻表にはそんなにバスはないようだし。遠ノ宮市と云うにしては風景は田舎が多いし。

 登場人物の名前なのですが、女の人は薫以外は子がついています。撫子は花の名前ですので除いても三人に子がついています。携帯電話と薄型テレビは出てきていません。もっとも、50話はケータイがあれば成り立たなくなってしまいますが。
 時代設定はいつ頃なのでしょうか。

 気になったことを一つ、大学生をつかまえて、生徒はないんじゃないのかなぁ、と。むかし、中学生・高校生は生徒で、大学生は学生と言われたものですので。


 書名『がんばれ! 消えるな!! 色素薄子さん』1~12巻
 出版社 一迅社
 2009年7月20日~2014年3月5日 初版発行

 背表紙の色が11巻だけ空色と腰巻に隠れる部分が若草色です。それ以外は白です。

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