どちらのお話も Wikipedia に載っています。
まずは『ミノタウロスの皿』から取り上げます。
ミノタウロスはクノッソスのラビュリントスの奥に棲むという身体は人間で頭は牛という怪物です。
主人公は宇宙船の事故で一人生き残り、地球型の惑星に不時着します。その星にはウスと呼ばれる地球人そっくりの家畜と、ミノタウロス型のズン類という支配者がいます。
ウスは服を着ていて外見は地球人にそっくりです。会話も普通にズン類と行っています。ウスの娘ミノアに恋心を抱く主人公ですが、ミノアはミノタウロスの皿に選ばれた肉用種です。
言葉は通じるのですが、かみ合わない会話(p. 172 の九齣にその様子が描かれています)、その根底にある概念のすれ違い、どうすることもできない主人公です。
以前に読んだ時には気がつかなかったことがあります。
会話のできない種では、食べるものと食べられるものとはおおむね決まっています。たとえば、ヒトは美味しく牛肉を戴きます、最後の齣の主人公のように。でも、普通はヒトは、犬や猫のようなペットを食べることはまずありません。昔のヒトは食人もしていたとも言われていますが、いつでもしていたわけではないようです。
アンデス山中に墜落した飛行機のことを思い出しました。
地球外のことを扱っているのだからと云われてはどうしようもないのですが、このマンガにはいろいろと考えさせられるものがあります。互いに会話のできる異種同士の事についてです。この話のように割り切れるものなのか、葛藤はないのかなぁと。
次に『カンビュセスの籤』です。Wikipedia ではわかりやすくするためか話の順番が違っています。
「カンビュセスの籤」については p. 133 以下で主人公が語っています。そして p. 136 でもう一人の主人公はこう言います。「地獄をのがれて…… 別な地獄へとびこんじゃったわけね。」と。
カンビュセスの籤に当たった男は、逃げて霧の中をさまよい霧を抜けて遥か未来の、生き残りが一人だけの地に来ます。互いに言葉は通じません。
双方の思いが通じることはありません、翻訳機の修理が終わるまでは。最後の日に互いの思いを語る二人。恋愛感情は一切でてきません、当たり前ですが。
籤に当たり、ミートキューブになるために装置に上る少女で終わります。
未来の悲劇の物語です。終末戦争によって二十数人だけが生き残り、籤を引いて誰かが犠牲になり、一万年の冷凍睡眠を行いを二十三回繰り返し、一人だけになった生き残りの少女、そこ現れた男なわけです。
「あたしたちには生きのびる義務がある」とは、地球で生き残ったものの思いなのでしょう。そして、唯一の救いが「一万年眠ってあなたが目覚めたらこんどこそきっと…」にあるのです。シェルターから宇宙に向けての発信につなぐ希望なのです。
昔読んだ時には、未来の戦争の悲劇だけにしか思いが至りませんでした。けれど、今回読み返してみて、悲劇ではあるけれども、地球に発生した生命体の代表となるのには成功するかもしれないとの思いを持ちました。
ヒト以外の生命がすべて消えてしまうと云うことは、地球が無くならない限りは、まあないでしょうが、その逆のヒトが消えてしまうことはありそうでゾッとします。
書名『ミノタウロスの皿』 異色短編集1
出版社 小学館 ゴールデンコミックス(GC番号はありません)
昭和52年12月15日初版第1刷発行
タイトル『カンビュセスの籤』
書名『ノスタル爺』 異色短編集4
出版社 小学館 ゴールデンコミックス(GC-14)
昭和53年4月15日初版第1刷発行
文中のページは上記二冊のものです。
書名『カンビュセスの籤』 愛蔵版 藤子不二雄 SF全短篇 第1巻
出版社 中央公論社
昭和62年2月5日初版印刷 昭和62年2月20日初版発行
これには「ミノタウロスの皿」と「カンビュセスの籤」が載っています。
上記の三冊は当然のことながら藤子不二雄名になっています。
この他に手元にあるものは
藤子・F・不二雄 SF短編PERFECT版 f1 に「ミノタウロスの皿」、f4 に「カンビュセスの籤」が載っています。どちらも2000年に出版されています。